人形を置いたのは
『命約が発動していないのならば、従者自身が受けた傷か。それが単なる事故なのか。それとも』
ディアナが狙われる事はあるかもしれないが、従者が狙われる理由はあるのか。一が死んだとして、別の従者が代わりを務めるだけのはず。
「その怪我も事故ではなく、仕掛けのような物が確認されています。私がこの館にいる間、新人の十以外の従者に調査をさせています。この件に関して、何か知っていたりしますか? 零」
十はディアナの従者の中で一番の新入り。他の従者は一の事件の調査で別に動いていたようだ。
その言葉にカイトも思い出した。事件を調べた際、ディアナの優秀な従者が死亡した話があった。別の従者を連れて行っただけで、何の関係もないと踏んでいたようだ。それはディアナが行方不明になった後の話なのだから。
「私ですか? 私は従者になったばかりなので、そこまでは。ですが、ディアナ様の従者に起きた事故に主は無関係かと。それなら、一の人形を作成すれば良かっただけの話ではないでしょうか?」
朝食の準備を終えたのか、零が食堂に来ていた時にディアナは声を掛けた。
そうなのだ。十の人形を作成したから、一に事故に遭ってもらうのはおかしい。それならば、最初から一の人形を作った方が問題が起きなくて済むはず。
「疑われるタイミングなのは分かります。人形の使い道は主から教えて貰っていませんが、皆様に似せた方法は分かりますよ」
「という事は、あの人形を用意したのは館の魔法使いなのですね。私達の中の誰かが置いたという可能性もあったので。追加された人形も貴女が?」
零の言葉で人形を用意したのは館の主で確定。メアリもそうは思っていたようだが、確証はなかった。
「はい。皆様が食堂を離れた後、調理場に戻り、片付けをしている間に人形が置かれてました。従者の部屋に人形があるのは分かっていたので、追加の人形だと」
『零も従者の部屋を利用しているのだから、人形が置かれているのを知ってて当然だな。追加の人形だと、置きにいくのも間違ってはいないが』
カイト似の人形を置きに行ったのは零。片付け等の作業を中断して、人形を従者の部屋に持って行ったようだ。
『ゴールド=ゴール本人が従者の部屋に人形を置きに行けば良かったのでは? 姿を見られないためだとしても、それは零の所に人形を置いたのも変わらないだろ?』
死神が疑問に感じるのも当然。ゴールド=ゴールは食堂、もしくは調理場に人形を置き、零に従者の部屋へ運ばせた。
その行動により、作業は中断され、今後の進行に影響を及ぼす可能性はなかったのか。
彼が従者の部屋に行く危険性は、食堂や調理場に移動時と変わらないのではないか。
『なんだ? 主と従者の関係はそういう物なのか?』
カイトはその疑問をすぐに頭の中で返答。主と従者の関係性。何事も従者達にやらせる。それはメアリとカイトでもそれほど変わらない。
水を取りに行くとして、メアリの方が近くとも、カイトに取りに行かせる。
零がゴールド=ゴールの居場所を知らない以上、目の前に置くまではしたという話。
『……食堂には何かあるかもしれない。別の場所に移動する手段か。それが君の意見か』
食堂には怪しい箇所がある。それも謎解きの一つであれば、解答した暁には何かを得られるはず。それが別の場所への移動方法であれば。
誰にも見つからずに、館の主がこの場所に移動出来たかもしれないのだ。




