罠
「これを起動するために、スイッチに魔力が必要だったのかもしれません。両方いるのか、片方で十分なのか。試してみましょう。もし、壁にある扉の線が動いたら」
「……出来るなら、壱が飛び込みなさい。私は無理よ」
キスとカイトが両方のスイッチを押した結果、二つの扉が開いたとする。
その扉をそれぞれが進む形になるのだろうが、僅かな時間でもあれば、割って入る事が出来るかどうか。
分断されず、一つの扉に二人が行く方法があるとすれば、それしかない。
三達がメアリを運ぶ際、一人はメアリを担いでいたはず。二人の幅や重さは関係なし。飛び込めない程の離れているわけでもない。
「分かってます。では……押します!!」
カイトは飛び込む構えを取りながら、スイッチを押す。キスもスイッチを押したままだ。
「どちらの扉も動かな……」
「……壱!!」
二人は不意を付かれた状態に。
両方の扉に変化はなし。片方ではなく、魔力は両方に必要と勘違いされた。
『扉とスイッチの跡……壁だけに注意を払うべきじゃなかった。キスの魔力は魔法使いと判別するだけでなく、手から流した物ではなかった』
キスは魔力が消えた事に僅かな違和感を感じていた。その理由を彼女は口にしていない。
何処から消えても同じだと踏んだのか。カイトが先に言葉を投げてしまったのか。
カイトが立っていた床、足場が開き、落とし穴に嵌ったかのように落下する事に。
死神の会話時に時間は止まるが、落下から回避する術はない。
勿論、キスも同じだ。カイトを助けるための時間が足りない。彼女が気付いた時には、落下しているのだから。
『彼女の足場が僅かに光っているのは、開放させないため。足から魔力を出したからだ』
キスも自身に何も起こらなかった事で、異変に気付くのが遅れた。
『それに……キスの前にある壁が動いた。彼女だけが閉じ込められる事はなさそうだが』
時間が止まっている事で、それはカイトの目にも見える。
カイトと死神の会話は落下中であり、顔が床の位置までに達している状態。
その視線は真っ直ぐではあるのだが、僅かに下から上へと壁が動いているのが分かった。
スイッチ同時押しによる扉の開放は間違いではなかった。
だが、魔法使いと従者では移動方法が違い、行先が同じかどうか。
分断させるつもりなら、それぞれが別の場所に繋がっているのだろう。
「キス様!! メアリ様をお願いします!!」
もし、この移動手段にメアリを利用したのであれば、カイトの行先ではなく、キスの前にある扉から進んだはずだからだ。