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擬似的世界


「カ……カイ……カイト!! 私の声が聴こえてますか?」


「……えっ? メアリ様!? ここは本当に」


「どうしたのです? 意識がここになかったような感じでしたよ。私が付けた名前を忘れたのかと思いました」


「そ、そんな事はありません!! 素晴らしい名前を頂けて感謝してます」


 カイトは主の声によって、意識が目覚めた。死神が作り出した擬似的世界は殺人現場となる舞台からではなく、そこに向かうための馬車の中から始まるのようだ


 この馬車はメアリが移動する際、常に使用していた物であり、カイトが間違うはずもない。当時も主は馬車を使っていたが、その場に彼は同行していなかった。


 死神はその場面で、カイトがメアリと共にする設定に変更していた。


「ど、どうしたのです!? やはり、体調は戻っていないのですか? 私一人でも大丈夫ですよ。カイトは家で」


 メアリは慌てたような顔でカイトを見ている。


 彼自身、自然と涙が流れている事に気付いた。長い年月を経て、メアリの姿を再度見れたのだから当然なのかもしれない。


 金髪碧眼と色違いであるものの、魔法使いの様相以外にも死神と似た姿……死神がメアリの姿を似せたのか。


「だ、大丈夫です。名前を貰った時の事を思い出して……それよりも」


『メアリを説得して、引き返すのは無駄だよ。この物語の結末は話したはず。ここで戻っても、何の意味を成さないから』


 死神の声がカイトの頭に響く。彼の心を読んだかのように、彼女から注意を受けた。そして、ここが疑似的世界なのだと、カイトは実感する。


『それと君に質問だ。この世界については君達の記憶で、ある程度は認識しているが、一応を聞いておこう』


 死神がいう君達というのはカイトだけではなく、殺されたであろうメアリや魔法使いの記憶も含まれている。


『君の名前はカイト。それはメアリが付けた事で間違いない。記憶の本にもそう書かれていた。だが、本来の君の名前はないのか?』


 カイトは死神が事前に言った通り、頭の中だけで言葉を伝えた。


 この世界は魔力を持つ者、魔法使いと持たざる者である従者の二種類の人間が存在する。といっても、従者は人間扱いではなく、物扱いに過ぎない。所謂、奴隷だ。


 魔法使い達は奴隷小屋で従者を飼い、その際に表示された数字が呼び名となっている。


 彼が目にした魔法使いの中で、従者に名前を付けたのはメアリだけだった。


『本来、名前を持つのは魔法使いのみ。従者は数字で呼ばれるのだな。なるほど……君の記憶の中に三人の魔法使いの名前しかないのはそのためか』


 カイトは主と共に消えた三人の魔法使いの名前までは調べる事が出来た。館の持ち主である四人目の魔法使いの名前を知るまでには至らなかったが、死神が言ってるのは魔法使いではなく、従者。


 彼がメアリに同行するように、他の魔法使い達も従者を当然連れてきているだろう。


 それが分かってるいるからこそ、死神は確認したわけだ。


「それよりも……何ですか? 行き先が危険なのは承知してますよ。他の魔法使い達との勝負になるかもしれません」


 カイトと死神との会話時は死神が作り出した疑似的世界である事から、時間が止まっていたのだろう。メアリは何も気にせず、彼に話しかける。


「ですが、継承出来るのは死者蘇生を目指す程の回復魔法。病気の治療も可能になるかもしれません。何故、私が候補の一人に選ばれたのかは分かりませんが、貴方の病気を完全に治すチャンスなのですから」


 カイトが主であるメアリの死を悔やむのは同行出来なかったのもあるが、彼女がその場に向かう理由が、彼の病気を治すため。だからこそ、彼を置いてでも、危険を承知で向かったからだ。


 だが、カイトがメアリの親友に引き取られ、死ぬまでの五年の間に回復魔法の情報は一切入らなかった。誰も魔法を継承出来なかったのではなく、その情報が嘘だったと考えるべきなのだろう。

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