工房
『なるほど……私も似たよう場所は何度も見た事がある。ここは……』
「工房ね。魔法使いであれば、館の中に一つは必ずあるわ」
「そうですね。メアリ様の館にも似た部屋はあります」
工房。魔法の研究もそうだが、主に魔導具の作成。新しい魔法の開発に使用する場所だ。
カイトがいた世界で、魔法使いが当たり前に持っている部屋だ。それは死神が知る別世界にも工房はあるらしい。
「だったら分かるわね。無闇に触るのは危険って事ぐらいは。それは調合室以上……私にも被害が来るかもしれないんだから」
工房の中は魔導具にするための様々な道具が点在している。触れるのも危険だが、発動方法もそれぞれ違ってくる。
花瓶の魔導具が良い例だ。あれは名前を呼ばれ、それに返事をした時に吸い込まれるなっていたと思われる。
その花瓶と似た物が工房の中にも置かれていた。
ナイフもそうだ。ナイフの魔導具は何処かに消えた説明書に書かれていた。
そのナイフはグリップがあるだけで、刃の部分はない。いや……薄くあるようにも見える。刃が魔力で出来ているのか。
魔導具のナイフは四本あったのか、掛ける箇所が四つあり、一本だけが残った状態だ。
『これは十が刺された時に見えた物と同じ持ち手だ。命約を解除する魔導具はこのナイフなのではないか?』
「このナイフのグリップ……十がナイフで刺されて、倒れる時に見ました。そのタイミングでディアナ様と命約が切れたのを考えると」
「……なるほどね。魔力の刃に命約を解除される呪文が書き込まれてるわ。それだけに反応するようにもしてるみたいだし」
カイトや死神の目でも微かに見えるものが、キスにはくっきりと判別出来ているようだ。
それは魔法使いと従者の差。魔力を上手く扱えるのかだろう。
彼の体に魔力はあるが、それは呪いによって溜まるだけ。使用する事は難しい。
『キスの言う通りであれば、刺されたのは十であり、刺したのが分身。血は準備していた。人間ではなく、動物の血だったかもしれない。メアリ達もそこまで調べる事はなかった』
あの場面、あの時点で十以外の血だとは誰も思わないだろう。鏡越しながらも、十が殺害されたと印象を与えた。何より、ディアナとの命約が切れた事が一番にそれを思わせる。
「四つ用意されてたのも、そういう事でしょ。残る一つは、アンタが解除するかどうかだった。けど、実際はそんな必要はないのだけど」
メアリとカイトは命約を結んでいない。その事を知っているのは、少し前に話したキスだけ。
相手がメアリを捕まえて、傷を付けた時点でバレてしまうのだが。
生贄にするのであれば、出来る限りは丁重に扱うだろう。




