毒矢
「そういえば……侵入者でボウガンを使った奴がいたわね。この矢に毒が塗られてた事を考えると、三の可能性が高いでしょ。私達と一緒に調合室に行ったのだから。もしくは、その前に手に入れてたかもしれないわ」
キスは侵入者の一人、黒の侵入者の正体を三と判断したようだ。
彼女が魔物対策に調合室から毒を持っていくのを、カイトは見て見ぬフリをした。それは謎の死体から発見されたわけだが、別の入手方法は確かにある。
アルカイズが花瓶に閉じ込められたとすれば、三は一人で調合室を調べられたはずだ。
それだけでなく、館の主の元従者であった場合、薬の種類を把握していてもおかしくはない。
「それだけじゃないわよ。零と侵入者達……三達との繋がってる可能性がより高くなるわ」
七が殺された事で、零と侵入者が協力関係になるのは何故か。
『赤の侵入者は君と零相手に手を抜いていた事は確かだ。それはメアリを外に連れ出し、狙い殺すためだと考えたが、生贄の事があると違ってくる』
赤の侵入者との戦闘時、カイト自身は本気を出していた。そこは零に関しても同じだったはず。
だが、赤の侵入者はあちらから攻撃を仕掛けて来ず、時間が経つのを待っていた節があった。
そこは魔法使いが出てくるのを待つためではなく、単に黒の侵入者の準備を待っていただけだったかもしれない。
勿論、それはキス達が向けたであろう、零の疑いを消すため。命を狙われた以上、共犯者から除外される。
確かにその狙い通りになった。キスも彼女の疑いを薄くした。
「零はアンタを庇って、腕に矢を受けた。この時に毒が塗られていたのなら、無事では済まなかったはずよ」
「……確かにそうですね。赤の侵入者も本気で僕達を殺そうとはしてなかったと思います」
七が受けた矢同様に毒が塗られていたのであれば、零やカイトが死んでいた可能性がある。
襲撃後に毒を盗まれる事も考えられる。その時間は確かにあったが、調合室の鍵を所有していたのは侵入者達ではない。
七の共犯者である二人が、カイトを殺さないように告げたのも納得出来る。あの時に零やカイトを本気で殺すつもりはなかった。
「コイツが殺されたのは、勝手な行動を取ったからだと思うのだけど」
「死因は毒もですが、胸に刺さった矢ですよね。他に気になる事でもあるのですか?」
キスは七が着る灰色の燕尾服の中を漁り始める。灰色の侵入者の正体が判明し、死因も分かった以上、他に調べる事があるのだろうか。




