新たな死体
「見た感じはどうかしら。こっちは魔力を感じない。極力抑えていて、側に寄らないと駄目な可能性もゼロではないわ」
『何も変化はないな。君の目の良さは彼女だけでなく、零達も把握しているはずだ。反対側も……』
先に向おうとしていたのは客室側の奥。キスはそちら側の魔力の流れを確認し、反対側までは見ていない。
一階の第二書斎のように、客室側に隠し部屋がある広さはない。あるとすれば、反対側の絵画室やピアノ室の方。
絵画室のように扉が違っている事もあり、部屋数が違っている可能性もある。
死神の判断は間違ってはいない。だが、途中で会話を区切ったのは何故なのか。
『血の臭いだ。ここまで届くとなると……距離的に近いはずだ』
「それって!!」
カイトは死神との会話を止め、即座に絵画室側の廊下に顔を向ける。
彼とキスがこの場にいる以上、残る人物は一人しかいない。
メアリ。生贄として捕らえたなら、安全だと考えたが、それは単なる想像でしかない。
魔法使い全員を殺すつもりでいるのなら、彼女も対象になるのは当然。
カイトが拒否するのであれば、別の誰かがする。
キス殺害に失敗した灰色の従者が、代わりとばかりに彼女を手に掛ける可能性も十二分にある。
未遂に終わったが、カイト殺害も本来するはずではなかった。
「何よ。二階の廊下に魔力の痕跡は……」
客室側だけでなく、二階の廊下に魔力の痕跡がない事をキスは感じていたようだが、目には入れてなかった。
「……あれは分身ではないでしょうね。確認しに行くわよ」
絵画室側の奥に近い位置に死体が置かれている。それもボウガンの矢が突き刺さった状態だ。
キスが少しの動揺はあるものの、落ち着いていられるのは死体の服装もある。
カイトが死体へすぐに駆け付けていかなかったのもそうだ。
死体か着ていたのは灰色の燕尾服。メアリが着ていた物でない事は遠目でも分かった。
更に言えば、メアリが相手を殺したわけでもない。矢がそれを証明している。
こうなると、七に招かれて、赤と黒の侵入者が再度侵入している可能性が高くなる。
ボウガンを所持していたのは黒の侵入者。奴が使用したのか。
零と赤の侵入者はボウガンを使用するのは難しいだろう。零は腕を負傷しており、赤の侵入者に関しては片腕を失っている。
「仲間割れをしたのなら、こっちとしては都合が良いのだけど。あの死体がどちらかによるわね」
灰色の燕尾服を着ている事により、死体が誰なのかは二択になる。
灰色の侵入者か。もしくは、零なのか。
零であるのなら、書斎を出て、すぐに殺された可能性がある。だとすれば、彼女は侵入者達の共犯ではなくなるのではないか。
怪しい面はあったが、確定するような失敗は犯してない。そこで殺す必要はないはずだ。