憎悪
『……気になったのだが、三や七は魔法使いに対しての憎悪を何時持ったのだ? 君は魔法使い以外に生まれた時と分かった時、そういうのを持っていたか?』
「……なかったとは言えませんが、魔法使いにだけとは……従者に選ばれただけでも十分だったので。下手したら、実験の道具扱いになるだけですから」
最低なのは従者に選ばれない人間。その末路は魔法使いの実験道具。それを考えると、従者は道具でなく、人間扱いはされている方だ。
カイトも魔法使いに対して何か思う気持ちはあるものの、メアリのお陰で救って貰った気持ちが強くなった。
主が従者をどう扱ったで変化するのは分かる。
メアリ同様、館の主は憎悪を溶かす事が出来たのか。
『最初からその気持ちは消えてなかったのなら、館の主の言葉も信じられるのか。信頼させて、これをヤラせるのは裏切りに近いとも考えられる』
最終的に主の都合を押し付けたとするなら、今までの行為がこのためだと、従者は疑う事があるかもしれない。
「だとしたら、従者達は館の主の言う事を聞くのでしょうか? 三は……それを許してないかもしれません」
三はアルカイズ以前の主に対して、苦言を呈していた。三が仕えたのは主は二人。館の主を含めるか否かによる。
含めた場合、館の主に対しての言葉になる。それなのに協力するだろうか。
館の主が魔法使いと従者との混血だとしても、魔法使いの立場になっている。
「……キス様達だけでなく、館の主を含めた魔法使いに憎悪があっても、それを敢行するメリットがあったら」
カイトはキスとの会話を続けながら、二階の階段に足を踏み入れる。死神との会話は時間が止まるものの、立ち止まって話をするだけ、時間が経過してしまう。
「メリット? 館の主が呼び出そうとしている相手が願いでも叶えてくれるわけ? それは主のであって、従者の願いは無理でしょ」
「違います。零が言ってました。この出来事が魔法使いと従者の立場を逆転される転換期だと。これを館の主の予知だとすれば」
館外で侵入者に襲撃される直前、彼女から聞いた話だ。実際、カイトが生きている間にそんな事は起きなかったが、それを従者達が信じるかは別。
従者達は館の主の予知を信じて、実行してもおかしくはない。
「なるほどね。けど、館の主は混血とはいえ、魔法使いになったわけだから、その予知を阻止したいと思わなかったわけ?」
従者寄りの考えが、魔法使いになった事で意識の変化があってもおかしくない。
「そこまでは……自分が死ぬ事が分かってるからこそかもしません」
館の主は死を目前として、回復と予知の魔法を継承させようとした。
継承が嘘だとしても、館の主の死ぬのは間違いではないのだとしたら。その前に絵画室に描かれた彼女を呼び出そうとしているわけだ。