裏切り
本当に七、三、十が生存していたとするなら、キス達、主を裏切った理由は何か。
館の主が本来の主であり、その命令に従い、生贄とするための魔法使いの元へ派遣されていた。
それが一番考えられる事ではあるのだが、ある意味で矛盾もしている。
三は魔法使いを毛嫌いしていた。これは嘘ではいないだろう。
アルカイズに対してもそうだが、以前の主は更に酷いと評していた。それが館の主であったのか。
仕えていたのは二人というのは、指示された後の可能性はある。
だが、生贄に選ぶとすれば、アルカイズよりも前の主で十分だったのではないか。
「従者同士の競争があるのは仕方ない。好みもあるけど、優秀な相手が欲しいでしょ。それでも衣食住はちゃんと与えてた。従者以下には戻りたくないはずよ」
「……それは三も言ってました。魔法使いをどう思っているのか。そんな話をして……」
それに関しても、三は答えていた。あの生活に戻りたくないと。アルカイズの従者の方がましであると。
キス達もここに連れて来る従者に、そこまで悪い生活はさせてないのではないだろうか。
七に対してもそうだ。彼がカイトに対しての嫉妬が生まれたかもしれないが、それがキスを殺す理由ではないはず。
彼はキスを恨んでいたのか。彼もキスの元で長年仕えたわけではなく、魔法使い自体を憎んでいたとも考えられる。
この二人でそうであるなら、十もその可能性が高くなるのではないだろうか。
零はどうなのか。従者になるのは館の主が初めて。
継承権争いのためだけに従者となり、命約も結ばず、そこまでの制約もない。
彼女が魔法使いを恨む事はないだろう。単に館の主の指示に従っているだけの可能性はある。
三と七、零との感情の差、従者の扱いの違いは気になるところではある。
「従者が私達をよく思ってなかったとしても、その生活を捨てられるのか。それだけじゃないわよ。今回の事が館の主の指示だとして、危険過ぎるでしょ。潜入がバレた場合、殺されてもおかしくないわ。私なら赦さない。コイツの方が酷い事をやらせているのよ」
キスが言いたい事は分かる。主の命令だとはいえ、他の魔法使いと命約を結び、この日のために潜入する。
潜入がバレた時の危険性もあるが、命約により、忠誠を誓ってない主の身代わりになる事もあり得る。
その従者が新しい主にどんな扱いを受けるかも分かっていない。
従者に酷い扱いをしているのはどちらか。キス達と館の主とでは、後者の方にならないか。
この日のためとはいえ、零との従者の差を七達は許せるのか。