褒めや感謝
「結界が消える前にメアリ様を見つけましょう。分身がキス様殺害を失敗したのは、こちらの姿を盗み見たら分かるはずです。このまま僕が先頭を進むので、キス様は魔導具の魔力感知をお願いします」
魔導具の魔力感知と言っても、メアリが持つ鈴の魔導具の事ではない。
キスが生存しているのであれば、館の主が罠を起動してもおかしくはない。彼女の殺害を灰色の侵入者にさせると拘るのかどうか。
勿論、魔法を使う感知では意味がない。探る程度ぐらいしか無理だろうが、ないよりかは良いはず。
「それは構わないけど。館の主にそこまでの魔力が残っているか。その事も忘れてたわね」
館の主は魔力が無くなってきている。そのために結界は作れず、侵入者撃退用の像に魔力を入れてなかった。
調理場の魔導具も継承権争いの一週間分の魔力しかないと、零が話していた。
これに関しては本当か嘘か。
二重結界を破壊しなかった理由にこれも含まれているのかもしれないが、花瓶の魔導具の件もある。
鏡の魔導具もそうだが、要所要所で魔導具が使われている。
当然、魔力は事前に補充されており、隠されていたのだろうが、館の主の魔力あるなしまでは判断がつかない。
「花瓶の魔導具みたいに隠していたかもしれないので。廊下の変化等には気をつけながら、進みます」
これは死神の目頼りになるのは仕方がない。それだけでなく、カイトが持つ鍵が使えない場合、第二書斎や絵画室の入口のように、隠れた扉を見つける事が必要になるかもしれない。
「アンタ……壱の目、観察眼は少しは信用しているから。何かあったら、すぐに言いなさいよ」
カイトの目は様々な事を見つけていて、キスの信用を得るまでに至っている。
「分かってます。まずは二階の客室側の奥に行きます。ディアナ様の横の部屋は鍵がされていたはずです」
「ディアナの部屋からも穴は開いてなかったのよね」
メアリやキスの部屋は横の客室から通じる穴が隠されていた。そこから睡眠ガスを流されたわけだが、ディアナの部屋にはそれが無かった。
唯一、客室に鍵が掛かっているのは、明らかに何かあると思わせる。
「……今みたいに、従者を褒める必要があったのかしら。物扱いは昔からよ。けど、褒める時もあれば、感謝する事もあったわ」
キスがカイトを信用すると言葉を告げてから、七が自身を何故裏切ったのかが、頭から離れないようだ。
「ディアナやアルカイズも従者を物扱いだったと思うけど、それなりの扱いはしてたはずよ。でなければ、この場に連れて来ないでしょ」
ディアナやアルカイズが生存していたのなら、キスと同じ疑問が頭を過っただろう。




