用意された死体
「僕が……ですか? あの時、おかしな事は何もしてませんよ。死体に触れたのは僕じゃなく……」
「アンタ達三人が死体を見に行く前よ。最初、少しの隙間から周囲を確認してたわよね」
「そうです。最初、零が確認した後、僕が代わりました」
零とカイトはそこで死体を認識した。少し目を離した時はあっただろうが、それで分身が消える事はないはず。
分身が死体となっていても、一度認識すれば、今のように別の場所、第二書斎から廊下へ出るような事はしなければならない。
「そこまで戻らなくていいわ。館を出る直前。アンタは少し開いてた扉を一度閉めてから、勢いよく扉を開けたのよ」
カイトはその場面を思い返してみる。ゆっくり開けるのは侵入者に攻撃を許してしまうと踏んで、一気に扉を開ける事にした。
その時、確かに一度扉を閉めた記憶がある。侵入者の攻撃を意識したのもあるが、無意識でやった行動だ。
「それによって、全員の認識がリセットされて、分身だとすれば、消えているはず。それが残っていたのだから、あれは間違いなく死体のはずよ」
誰か一人でも見続けていたのなら、話は別だったかもしれないが、扉を閉めたせいで全員の視界から外れる事に。
それでも残っているのは、分身ではない証拠となる。残された体から血が流れていた事で確実となる。
「……そうです。あの死体から血が流れていたのも思い出しました。それも用意された物ではなかったはずです」
「だとしたら、あの死体は三自身? 血が流れていたのなら、そこまで時間は経過してないはずよ。館の主の従者が死ぬために待っているのも」
あの死体が用意されていた物だとしても、出血から考えると、そこまで時間は経過していない。
だが、あれが三でなかった場合、何のために必要だったのか。その死体が零達のような従者だとして、彼女でも問題はなかったのでは?
灰色の侵入者=七?がキス殺害を目論んだように、三もアルカイズ殺害が目的だった。勿論、魔法使い殺害は恨み辛みもあるだろうが、生贄するためだとする。
それは花瓶の魔導具に嵌める事で成功。館の外に出た時には目的は達成していた。
だとすれば、わざわざ死体を用意しなくとも、三の死体で良かったはず。
『……その従者が用意された理由に、仮説は幾つかあるが。それを知ったところで何が分かるわけでもない』
あの死体が三でなかった場合、誰なのか。零以外の従者であったのなら、外で何か仕掛けをしていたのか。




