生存
「……僕は話しました。キス様は何を気にしているのですか? それは……メアリ様にも関係するのでしょうか?」
カイトが話した以上、次はキスの番だ。二人での行動を強いられたのなら、気になる面は共有するべきであり、でなければ、互いに危険を有する事になる。
「……壱は侵入者の死体に対して、おかしいとは思わなかったの?」
「……おかしい……ですか?」
カイトはキスが死体を調べた事で、自身で触れる事はしなかった。
顔の部分であるマスクが爆発した以上、侵入者が生きているはずはない。
「キス様の魔法ではなく、彼自身が自死を選んだわけですよね?」
彼女が使ったのは鎖魔法。灰色の侵入者の素顔を見るため、捕縛を選んだ。そこから更に攻撃魔法を仕掛ける必要はなかったはず。
それをすれば、結界に使用するための魔法が使えなくなる。
メアリが捕まっている以上、それを助けるために魔法が必要となれば、結界は諦めるしかなくなる。
救出するまでの時間によって、結界が解除される事も考えなければならず、時間との勝負でもある。
とはいえ、先程の情報を整理する時間は必要だった。何かあれば、その時に伝えるべきなのではないだろうか。
「そうね。私が殺したわけじゃないわ。……そもそも、死んだわけでもないのよ」
「……えっ!? 侵入者の頭が無くなったんですよ。あれで生きている人間は……」
『人ではなかった……という事か。今思えば、マスク部分が爆発した事が印象に残り、アレがなかったのは確かにおかしい』
「アレとは一体……」
あの死体に欠けていたのは何か。頭がないのは二人も分かっている。彼には意思があり、カイトやメアリを殺そうとした。甲冑や人形……人の形をした魔導具とは思えない。
『血だ。キスもマスクの中身を確認するのを避けたわけだが……どちらからも血が流れる事はなかった。あんな状態になれば、血飛沫が噴出する。君の体に付着してもおかしくはなかったはずだ』
「血が出てなかった。だから、アレが本物ではないと分かったんですね。だとしたら……分身というものですか?」
カイトはキスに尋ねる。第二書斎に鏡が第一書斎同様、三つあった。
その一つが転移用の鏡の魔導具。キスとカイトが転移してきた鏡だ。
残り二つの鏡がある。鏡の魔導具の用途には転移以外に、鏡の中に道具を保存する事もあれば、鏡に映った人物をもう一人を作り出すのもある。
灰色の侵入者はその後者にあたる分身だった可能性があるのだ。
その分身も意識があり、体を自由に動かせる程の物だと、カイトも想像してなかった事もある。
キスも途中までは七本人だと勘違いしていたのだから。