死人に口なし
「なっ!! 往生際が悪……いわね」
侵入者の剣は鎖で使えず、身動きもままならない状態であったが、キスがマスクに手が触れる瞬間に体をぶつけ、彼女を転げさせる。
キスに体当たりをしたところで、彼女は拘束を解く事はしなかった。二度と同じ手を喰らう事はなく、確実に侵入者の素顔を晒す事になるはずだった。
だが、素顔を隠すためではあるが、侵入者は鎖の束縛を外すために、キスに体当たりしたわけじゃない。
それ自体を無くすため。侵入者の頭がその場から無くなった。首が切れただけでは、残った頭を見られてしまう。
素顔を見せないため、頭が爆発したのだ。その爆発はマスク内で収まった形で。
侵入者達がマスクをするのは、素顔を見せないためでもあるが、自決用の魔導具でもあったというわけだ。
「キス様」
「問題ないわ。これをしたのは本人なのか、主なのかは分からないけど、素顔を見せるわけにはいかなかったようね。けど、それをする時点で教えているようなものよ」
素顔を見せないようにするのは、キスやカイトが知る人物だから。見ず知らずの者であれば、あのような死に方をさせなくても良かったはず。
「……アンタはメアリはすぐにでも探しに行きたいのだろうけど……コイツが何か持っているかを調べるわ」
侵入者が七であれば、命約をどう解除したのか。その魔導具を所持しているのか。もしくは、彼だと分かる体の特徴でもあればいいのだが。
『キスの言う通りだ。君も焦る気持ちはあるだろうが、彼が七だった場合、魔導具の説明書を所持している可能性もある』
大時計の中にあった魔導具の説明書が消えていたが、それをこの死体が所持しているかどうか。勿論、説明書がすでに消されている可能性も十分ある。
「……大丈夫です。メアリ様はまだ無事でいるような気がするので。侵入者が僕を行かせようとしたのも、彼の狙いがキス様だからだけでないような気がするので」
カイトは死神だけてなく、キスにもその事を伝える。
侵入者は彼を殺さず、先に行かせようとした。それだけではなく、二人は彼を殺すのを反対していた。
カイトに何かさせるためだとすれば、メアリが関係するのではないだろうか。
それ以外にメアリの器説もある。
「キス様は……侵入者が七であったとしたら、何時裏切ったと思いますか?」
侵入者が七であった場合、彼は何時キスを裏切ったのか。
館内だった場合、零や三に唆された可能性はゼロではない。
だが、それ以前であれば、辻褄が合う事が出てくる。
ディアナやアルカイズが死んでいる以上、答える事が出来るのは、キスだけになる。