正体
「何故コイツを助ける!! 鎖の魔法なのは、コイツを巻き込まないためなのか」
侵入者はキスが魔法を使用出来た事ではなく、カイトを助ける行為に対して、激昂している。
「……ふぅ……毒の収まってきたわね。アンタもどれだけの毒に慣れてるのよ。メアリはそんな事させるとは思えないのだけど」
キスも毒が薄まってきたのか、話せるまでに回復してきたようだ。沈黙の毒はそれほど強い毒ではなかった。いや、魔法使いやカイトの毒耐性があっただけなのかもしれない。
「俺を無視する……ぐあっ」
キスが放った鎖は侵入者の体全体を強く締め付け始める。顔を残しているのは、話をさせるつもりなのか。
「魔法は必ずしも詠唱は必要としないのよ。その分、時間や魔力を多く費やす事になるんだけど」
侵入者もそれを教えられてなかったのか。侵入者の主もそれを知らなかったのか。
「普通の魔法使いなら動揺したかもしれないわ。詠唱は必要だと思い込んでいる魔法使いなら尚更ね」
それは侵入者の主が優秀ではないとキスは言いたいのか。
「私の従者の殆どはそれを知ってるのよ。知っていて、私の従者でいなくなったのは、命約で死んだ者だけ」
となれば、どれだけ毒に耐性があるのか、詠唱なしで魔法を使える事を知らないのであれば、長年連れ添った従者ではない。
いなくなったのは命約で死んだと、キスが答えている。
「私に恨みを持つ魔法使いはいるわね。けど、従者頼りではなく、自身で手を下す奴等だと思うわ。私に殺された魔法使いの元従者だとしても、今の主がそれを許すかも分からない」
キスは侵入者に近寄っていく。その侵入者が誰であるか予想しているかのように。
「私を恨みながらも、すぐに手を出さなかった。壱を助ける事に意義を唱え、嫉妬する面も見せた」
侵入者は仲間の意に反して、カイトを殺そうとしていた。キス殺害の邪魔をする事に対してではなく、別の要因とあるとキスは感じたようだ。
それに自身が関係している事も。
「コイツにそんな面を見せるのは一人しかいない。ここに来て、壱を見ている人物。そして、私の従者である事」
「……まさか。そんな事は」
キスが言葉にする事で、カイトの侵入者の正体が誰なのかが頭に浮かび込んできた。
「戦闘による動きを見てもそうだったわ」
彼女は侵入者に手が届くまでの距離に。鎖の魔法により、抵抗は不可能。
侵入者は無理にでも外そうとしていたが、今は諦めたかのように静かになっている。




