待ち伏せ
「そんな……相手は鏡の魔導具が使われた事を知ってる事になります。タイミングを考えると……ずっと、その部屋で待機しているのは」
カイトに緊張感が走る。
謎の人物は鏡の魔導具が使われた事を知っている。カイト達か飛び出すタイミングも分かっているのか。出口側の鏡に分かりやすい変化があるのかもしれないが。
鏡の変化で分かったとしても、その部屋でずっと待機していたのか。それとも人ではなく、甲冑の魔導具が罠として用意されていたのか。
死神は謎の人物がどのような姿をしているのか、カイトに言っていないからだ。
『誰かが教えたのか。彼女だとすれば、転移先はそこまで離れていない事になる。もしく、彼女自身か。服が灰色の燕尾服……衣装室にあった物だ』
彼女は謎の人物が着ている服装をカイトに伝える。甲冑の魔導具等ではなく、従者が着る燕尾服を着用しているらしい。
その人物を零と言わないのは、侵入者同様、顔を隠しているのだろう。
灰色の燕尾服は館の主の色。零以外を辞めさせたのは嘘であり、従者を隠していたのか。
外にいる侵入者達はメアリやキスの色をした燕尾服を着ていたように、惑わせるつもりか。
『それにあの剣は……』
剣。剣を手にしていたのは七だ。奪った物であれば、奴が彼を殺した事になる。
「……キス様。転移した先に、何者かが攻撃を仕掛けようとしてるようです。魔法を使う事は可能ですか?」
カイトは死神が見た事を伝える。相手もカイト達がすぐに反応してくるとは予想していないだろう。
「本当に見えたの!? だけど、それは無理ね。信用してないわけじゃないわよ。別の魔法を使えば、今の状態が解除されるの。それに……」
キスが攻撃魔法を事前に準備するしようにも、魔法の膜が解除されれば、その方が危険である。
そして、詠唱出来ない理由がもう一つ。転移にはそこまで時間は掛からない。
カイトと死神の会話は時間が止まっているが、キスとの会話ではそうもいかない。
着くまでに掛かるのは、長くても数分。カイトの目に見える黒い穴は、数秒で着く距離までになっていた。
『こうなれば、先に攻撃するしかない。相手は真正面にいるはずだ。体当たりで突き飛ばせ』
カイトの片方の手はキスと繋がっており、もう一つは斧を手にしている。
攻撃するとして、真正面にいたとしても距離感までは分からない。
相手が剣を振り下ろす前に、飛び出すと同時にぶつかるのが一番だろう。
「でしたら、僕の体が全部出たと同時に手を離して、体当たりをしても」
「問題ないわ。私が鏡に取り残される事はないから」




