変更
「それでは……私達は先に行くわ。触れる事を許してあげるから、アンタは私の手を握りなさい。そうする事で一人扱いと鏡に思わせるから」
「……分かりました」
キスが手を差し出し、カイトをそれを握り締めた。手を繋げる事で、一人の人間だと魔導具を惑わせる。途中で手を離せば、どうなるのかは分からない。
「キス様は魔法学の鏡で良いのですか? 彼女を気にするのでしたら」
カイトは死神が零の言葉を気にした事によって、キスに尋ねる。
零がキスの行き先を知る事によって、そこに何か仕掛ける可能性がある。
彼女を気にするのであれば、キスもそこは承知済みのはず。
「そのままで良いわ。アイツを追い出した後、私達が転移する鏡を変更かもしれない。特に私はそうすると思うんじゃないの? それを逆手に取るのよ」
零も少しはメアリ達から信用を獲られたと考えても、完全ではない。疑いが残ってる以上、変更すると、彼女も思っているかもしれない。先に部屋を出した事もそれを考えさせる。
「なるほど……確かに目の前で転移しないと、判断はつきませんね」
カイトもキスの言葉に納得する。彼も零の立場になれば、彼女の行動を疑うだろう。
「私もそのままにします」
キスの話を聞いて、メアリも転移先の変更はしないようだ。
零にすれば、メアリが嘘を吐くとは思わないだろう。館の主に知らせるとするなら、メアリの転移先なのか。
「気をつけなさいよ。まずは調べる事よりも、合流する事を優先するべきだから」
キスはメアリに念押しをする。魔法使いは調べ始めたら没頭する傾向にある。周りが見えなくなれば、簡単に捕まってしまう。
「分かってます。壱はキス様を守ってください。勿論、貴方自身も無事でいるように」
キスとカイトは魔法学の鏡の前に立つ。後、一、二歩進むだけで鏡の中に入れる距離だ。
キスは短く詠唱し、入る準備をする。二人の体が全部が入って、転移が完了するのだろう。
十が転移した時、全てが入り、少し経過した後で鏡越しに転移先が判明した。
『……この距離でも鏡の中に吸い込まれる事はないな。鏡の魔力の残量次第だとしても、あの時もそうだったはずだが』
十は鏡に吸い込まれ、転移した。この距離では同じ事が起きてもおかしくはない。
だが、どちらかが吸い込まれる様子もなければ、手を繋いでる事で抵抗しているわけでもない。
『鏡の先の誰かに引き込まれた……わけでもない』
十が転移先で取った行動。人の仕業であったのなら、部屋の探索をするにしては警戒が薄かった。先に鏡を見るべきであり、無闇に動くべきではなかった。




