キスとカイト
「だとすると、地下はあると踏んだ方がいいわ。当然、アンタがこの先に行くのも駄目なのよね?」
三つの鏡の内の一つに零を行かせる。彼女であれば、地下でなければ、そこが何処なのか分かるだろう。そして、戻ってくる事も出来るはすだが。
「はい。この鏡は謎解きの報酬なので、私が移動するのは無理です。鏡の先に何があるかも分かっていません」
彼女の答えはキスの予想通り。そして、鏡が何処に繋がっているのかも知らされていない。地下の話を聞かされていないのであれば、当然といえば当然だ。
「そうなるわよね。そうなってくると……私とメアリ、壱の三人それぞれで行くしかないわ。人数も丁度しかいないわけだし」
三つの鏡を全て確認するためには、危険を承知で、全員が別行動を取らなければならない。
キスはカイトだけを行かせるのではなく、自身も鏡に向うつもりのようだ。
「……待ってください。鏡の一つは諦めませんか?」
「はっ!? ……それもそうよね。自身の身を守るためなら、従者を一緒に連れていくわ。鏡の魔力の補充は無理でも、魔法で軽減して、二人行くようにするわけ」
鏡自体に魔力を補充するわけではなく、メアリが転移するための消費量を減らし、無理矢理二人で行く事が出来るようだ。
メアリとカイトは命約を結んでいない。別行動を取り、彼女が襲われたとして、カイトは身代わりになる事は不可能。
館の主を見つけ出すためなら、三つの鏡に其々が行くべき。
命を優先するなら、カイトと共に行動するのが正解だろう。
彼女はこの世界が擬似的な物とは知らないのだから。
『メアリからすれば、その行動は間違ってはいないが……違和感があるな。彼女が自分の身を守るために提案するだろうか? それが君を守る事だとしてもだ』
メアリはカイトを危険に晒さないため、一緒に行動する事を選んだとして、カイトはメアリを守ろうとするだろう。
魔法もここで一回使うのなら、結界にも必要であり、今日の回数はゼロになってしまう。
彼女が彼を守る手段が無くなるのだ。自身が足枷となる事を本人は良しとするのか。
「……はい。ですが、共に行くのは私と壱ではなく、キス様と壱が一緒に行って欲しいのですが」
「メアリ様!?」
キスよりも先に、カイトが驚きの声を上げた。
従者は主の指示に逆らえない。二人の関係であっても、この提案を拒否する事が出来ないのは、カイトも分かってしまった。
「……意味が分からないのだけど。理由を説明してくれない? 何で私が壱と行かないと駄目なわけ? 協力関係だとしても、私だったら、そこまでしないわ」