面識
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「……ちょっと待って。今更なんだけど、絵画室で気になる事があるの。ほんの少しだけ寄っても構わないかしら」
カイトは死神との会話を終えて、廊下に出た。時間も止まっていたお陰で、三人に怪しまれる事はなかった。
そこから一直線に書斎へ行くはずだったのだが、キスが絵画室前で足を止めたのだ。
絵画室はアルカイズの死体があった場所であり、館の主の大事な人物の肖像画が飾られている場所でもある。
その肖像画の題名を入力するのが、絵画室の謎解きとなっている。
「あの絵について、何か分かった事があるのですか?」
絵画室の謎解きのヒントがピアノ室にあったのか。
カイトやメアリはそれに気付いていない。死神もそうだ。
ゴールド=ゴールの絵にあったのはサインのみ。謎解きの絵にはサインらしき物はなく、彼女がゴールド=ゴールではない事は、零も言っている。
「……気になる事があるだけよ。謎解きのヒントを見つけたわけじゃないわ。本を調べても、それらしき物はなかったから。当然、あの部屋でもそうだから」
メアリの疑問に、キスはそれを否定した。
書斎から持ち出した本の中に、絵画室の肖像画については何も書かれてなかったようだ。
キスが言う、あの部屋というのは、勿論ピアノ室の事だろう。謎解きを先にされ、出てきたのが老人の絵。
あの絵と共通するのは肖像画というだけで、他には何もなかったはず。
「逆に聞きたかったんだけど、メアリはあの絵を見て、会った事があると思った?」
キスはメアリが館の主と会った事があるのかを聞いてきた。
館の主が誰なのか、キスやメアリも知らなかった。あの絵を見て、ようやく確認出来た。
それによって、メアリとキスは過去に彼と会った事があるのか。
それによって、候補者が選ばれた可能性があるという事なのか。
「いえ……会った事はありません。覚えてないのが、正しいのかもしれませんが」
館の主が候補者にメアリを選んだ以上、彼女が会った事はあるのかもしれない。もしくは、一方的に知っていたのか。
メアリは従者を一人しか取らない事で有名ではあった。周囲からの情報は得る事は出来はしただろう。
「キス様は会った記憶があるのですか? ですが……」
「それはメアリと同じよ。会った事もなければ、見た記憶もないわ」
キスやメアリがあの絵の人物を記憶していたとして、あの絵に何の意味もないはずだ。
キスは謎解きのヒントではないと、メアリ達に告げている。
「私は別にどうでもいいのよ」
それだけでなく、彼女自身よりも、メアリと出会っているのかが重要であるらしい。




