老人の絵
「ここにあったのは他にあるのと一緒で風景画だったのよ。けど、今は肖像画、人物画になってるわ。しかも、その絵の下に凹みなんてなかった」
キス曰く、この絵も風景画だったようだ。下には凹みもなかったと。
その凹みは小さく、人形も入らない程の大きさしかなさそうだ。鍵等の小物等が隠されていそうだが、何もなし。すでに取られた後なのか。
「……その絵に描かれているのは館の主、ゴールド=ゴールです。自身の絵も描いてあったみたいですね」
零はその絵が館の主であるゴールド=ゴールだとメアリ達に教えた。
この絵が隠されていたのは、彼の姿をメアリ達に教えるためだろう。今まで、彼の姿をメアリ達は知らない状態なのだ。
館の主は零が言っていた通り、アルカイズよりも年上の老人。踊り場にある本家とは別人だ。
『彼が館の主か。隠されていたのなら、信憑性は増すわけだが……』
絵の老人がゴールド=ゴールであれば、館の主が若いという仮説は否定される。
混血の魔法使いは短命であると説明されたわけだが、彼だけが例外なのか。回復魔法を自身に使う事で、短命を脱却出来たのか。
「彼がゴールド=ゴールなのですね。貫禄がありますね。ですが……」
「この年齢になりながら、回復魔法を公表しなかったのは違和感があるわね。混血の魔法使いが見下されていても、汚名返上出来たはずだわ」
メアリとキスは館の主の絵を見て、納得はするものの、違和感があるのも否めないようだ。
二人もそこまでの年齢とは思っていなかった事もあるだろう。混血と聞かされていたのなら、尚更だ。
こんな年齢になる前に回復魔法を公表していれば、混血の魔法使いの立場も変わっていたかもしれない。それも今更の話なのだが。
「私も主が表舞台に立たなかったのか、そこまでは聞かさせてないので、何とも言えませんが……嘘ではないです。絵にサインも書かれているようですし」
ゴールド=ゴールの肖像画には自身の証明として、サインが書き込まれている。
『……魔導具の説明が書かれたのと同じ筆跡だな』
死神は魔導具の説明が書かれた紙束の文字を思い出し、カイトにそれと同じ筆跡だと教えた。
カイトも花瓶の魔導具の説明が書かれた紙を取り出し、確認してみる。確かに文字の癖が似ているように見える。
「なるほど……サインと説明書に書かれた文字が似ているかを確認するのは良いアイデアです。これを見ると……間違いはなさそうですね」
カイトが説明書を確認している事にメアリは気付き、同じ様に見比べる。
彼女から見ても、文字は同じだという判断を下した。となれば、零の言う通り、彼が館の主で間違いないのだろう。