ポケットの中
「……従者の遺体だけが消えてるのは」
「……生贄とか、そういう儀式に関係するかもしれない……そういう事ですか?」
メアリは誰がしたのかまでは口にしない。ここまで来ると館の主の可能性が高いのは、彼女自身も分かってはいるはず。
館の主が呼び出すのが神ではなく、悪魔だった場合、人の恐怖は必要。それにはそういうイメージがある。メアリも悪魔学の本を解読し、そういう面を見つけたかもしれない。
「……もう一度、ディアナ様達の死体も見ておくべきではないでしょうか?」
従者三人の死体が消えた事で、残ったのはカイト一人。本来、カイトが来なかった事を考えれば、次の準備に入る可能性もある。
そうなってくると、ディアナとアルカイズの死体が無事にあるかどうか。
「……そうですね。零を除けば、残る従者は壱一人。変化があってもおかしくはないかと」
「……ちょっと待って。服の中に何かあるわ」
キスは七の燕尾服のポケットに何か残っていた事に気付いた。それは犯人のヒントになる物なのか。
「鍵……七に預けていた鍵だわ」
「それって……相手は鍵を奪わなかったのでしょうか?」
七を殺害した相手は、燕尾服の中にあった鍵を抜き取らなかった。それをすれば、ピアノ室の謎解きは頓挫した……まではいかないが、謎解きの時間を減らす事は出来たはず。
魔法を使えば、解錠出来たかもしれないが、それは最終手段。出来る限り、そんな事で魔法を使用したくないからだ。
メアリが疑問を持つのは当然だ。
「謎解きを続けされたかったんでしょうね。それが継承のためなのかは別としてね」
キスは館の主がした前提の言い方だ。謎解きを続けさせるにあたり、メアリ達を殺すつもりなのかもしれないと。
『確かにそれはあるかもしれない。ここまで警戒すれば、メアリ達を殺害するのは難しくなる。謎解き時に何かする可能性もある』
侵入者を館から出した事による安心で、七も警戒心が弱くなったのかもしれない。
だが、彼の死によって、キス達の警戒度は戻った。魔法使いが二人残っている中、狙うのは厳しくなるはず。
それを謎解きによる何かで二人を分断、もしくは罠に嵌めるつもりなのかもしれない。
「……キス様は謎解きを……継承権を放棄するなんて事は」
キスは七を失い、危険度が増したのは当然なのだが、ここに来て、謎解きをさせようとする相手の動きが、更に怪しく思わせる。
それを考えた時、諦めるのも一つの手でもあるのだが……
メアリにとっては、キスには降りて欲しくはないだろう。