魔力の追跡
「……キス様は七が自室にいるかを確認したのですか?」
カイトは物怖じせず、キスに尋ねた。部屋に鍵が掛かっているのは聞いたが、念には念を押すためだろう。
「当たり前よ。ノックもしたし、ドアノブも回してみて、鍵が掛かっているのかを確認したんだから」
キスは怒りもせず、普通に答える。今の状況で、従者から魔法使いへの質問に対して、彼女もそこは咎めないようだ。
それを教える事で、自身の確認にもなる。カイトの質問、指摘によって、新たな案が思い浮かぶとも思っているかもしれない。
「……魔力を辿る事はしたのですか?」
キス達は浴室から離れ、二階に向かうために階段へ。
歩きながらも、カイトは質問を続ける。
従者である七に魔力はない。だが、彼が着ていた燕尾服には加護があり、キスの魔力が宿っている。
十が鏡の魔導具で転移し、侵入者に襲われた時、ディアナが彼の燕尾服に宿る魔力を辿った事があった。
今回もそれをすれば、キスは七に辿り着いたのではないのだろうか。
「燕尾服の加護ですね。私もそれで壱を捜そうとしましたが……キス様もそうしてましたよ。そうです!! 壱の服を取り替えないと」
「花瓶の魔導具の中は魔力を吸い取るのよね。加護の魔力も無くなっててもおかしくないわ」
メアリもそこに気付いたのだろう。少しでもカイトの安全を考えれば、燕尾服の加護を補充しなければならない。
それをメアリは何着かは用意しているようだ。
「それと……メアリの言った通り、魔力で捜すのは当然したわよ。けど、感じ取れなかった。魔力を遮断する魔導具を使われたか、加護が魔法で壊されたのかね。七の部屋で魔力を感じ取れる事はなかったわ」
キスも魔力を辿ろうとはしたようだ。だが、加護の魔力はすでに機能していなかった。
七の死体が自室にない可能性が高い。命約もあるが、隣で加護の魔力が切れたのなら、流石に気付くだろう。
「……教えて頂き、ありがとうございます」
カイトはキスに頭を下げた。
「それを聞いて、何か分かった事はないの?」
キスは質問の意図を聞いてくる。見返りもあるが、新しい情報を期待しているのかもしれない。
「もし、鍵が掛けられてなかった場合、僕達がするのは無理です。キス様と僕が寝ている間、メアリ様は零と常に一緒にいましたか?」
「そうですね。零が離れるとしても、調理場にお茶を取りに行くぐらいでした」
メアリに気付かれず、零が七の部屋のドアを開ける事は出来ない。
つまり、解錠されていた時点で、零が館の主でない事の証明となる。
勿論、死神との会話内に過ぎず、その事をキス達に告げる事はしない。