似た境遇
「では……ここからは私が話しますね。主はメアリ様のように、従者全員に優しかったようです。割り当てられた仕事が終われば、自由にさせてました。知識を得たい従者には、文字や薬草の扱いも教えたらしいです」
零はゴールド=ゴールが従者に対する扱いを口にしていく。
「僕も文字に関してはメアリ様から教えて貰いました。家事等、生活する術はそうです」
『そう考えると、ゴールド=ゴールはメアリのように従者に優しく接していたと感じるな』
零の主に対する話にメアリが共感するのも納得出来る。
「メアリ様と同じで、魔力を得たのは後天的らしく、きっかけも似ているようです。命の危険に陥った時らしくて」
「そこまでではないですが……生き抜くためにですね。人の顔色、動作、思考を観察している内に」
メアリの感視や共感はそうやって出来た魔法のようだ。詠唱は無意識ではなく、意識して使えるようにするための方法なのだろう。
「主の場合、本当に殺されそうになったみたいです。複数人いたらしいのですが、何人かは……」
従者を斡旋する人間が捨てられた子供を集めていたのだろうか。
使えないと判断した子供を殺していてもおかしくはない。
ゴールド=ゴールは無事ではあったのだろう。その時に魔法で人を殺したのか。もしくは、倒れた子供を回復魔法で助けたのか。
そのどちらかは零も言葉にはしない。そこまでは伝えられていないのだろう。
「なるほどね。そこまで似た境遇なんだ……それをメアリは誰かに言った事があるわけ?」
キスがそう質問したのも、メアリが候補者に選ばれた理由が、ゴールド=ゴールと同じ境遇なのではないかと頭に過ったからではないか。
「いいえ。誰にも……壱以外は知らないはずです。子供の頃の私を知っている人がいたら別ですが」
「僕も誰かに話した事はありません」
カイトもそれを否定する。主の秘密を公にする従者はいないだろう。
メアリの素性を知っているのは、魔法使いになった頃、それ以前の事を知る人物になる。
勿論、彼女の素性を知らずに呼んだ可能性もある。候補者になる理由がそれだったら、無関係なディアナ達を選ぶ必要はない。
「偶然にしては気になるところね。ゴールド=ゴールはメアリに対して、何か言ってた事はないの」
「いいえ。メアリ様の素性は今知った事なので」
「そう……流石にそれはないわよね。事前に言ってしまえば、アンタも特別視するかもしれないわけだし」
ゴールド=ゴールがメアリの事を零に伝えていた場合、最初から彼女に決まっていると勘違いする可能性もある。そのせいで、他の候補者の対応が変化すると困る事になる。
下手にしたら、キス達三人でメアリを殺す未来もあっただろう。