十
『回復魔法を欲しい理由は様々だからな。そこよりも気になるのは十の方か? 命約によって、身代わりになるのは変わらないが。不老不死を願うなら、メアリや館の主のように命約を外す事はないだろう』
従者の部屋前でカイトが受けた三と七からの視線。
それはカイトではなく、後に従者の部屋に入った十に向けられた可能性がある。
というのも、今回はメアリ以外は連れている従者が違うらしい。従者が多数いるのならば、誰を連れて行くのも自由。
キスとアルカイズの従者が別な事に誰も気にしていないのだが、ディアナの場合は別のようだ。
彼女は多くの従者を抱えているのだが、常に側にいる従者が一人いたらしい。メアリにとってのカイトのような存在とまではいかなくとも、一番信用に足る人物。
一人しか連れて来れない状態ならば、その従者を選ぶはずなのに、この重要な場に来たのは十。
それは十がディアナにとっての一番の従者の席を相手から奪い取った事を意味する。
キスやアルカイズもそれを知ってるからこそ、十の動きを警戒するように指示をした可能性がある。
十が従者の部屋で見せたカイトへの発言が、優秀さを物語っていた。
そんな優秀な従者であっても、ディアナの死は免れていない。
『従者の部屋がどんな風になっているか。あのメンバーだったら、雰囲気など気にしないか』
従者達で会話もなく、争いは禁止されている。本当に体を休むだけになるのか。互いに監視する状況。それでも休むのが従者の役目かもしれないが。
死神の話が途切れ、カイトは従者の部屋へと進んでいく。
廊下や一階フロアだけでなく、食堂及び調理場の明かりが着いた状態。
零は夕食の片付け及び、館の見回りをするつもりなのだろう。
今の時間は二十二時。彼女が従者の部屋に来るのは夜遅く、もしくは、日が変わる頃になるだろう。
カイトは従者の部屋をノックする。食事を終えてから、一時間は経過している。誰かが先に部屋へ来ている可能性は高い。
「入ります」
返事は無かったものの、カイトは一言言ってから、部屋の扉を開けた。
三、七、十の三人共に部屋の中にいた。全員が燕尾服と同じ色のベッドを使用。やはり、零はこの場にはいない。
三は燕尾服を脱いでる最中であるが、七や十は見向きもせず、彼女も恥ずかしがる事はしない。従者にとって男女別というのはなく、カイトも気にした様子はなさそうだ。
カイトは黒のベッドを選び、ベッドに腰を掛けて、周囲を確認。
七はすでにベッドへ横たわり、眠っている。十はカイトの方に一度視線を向けたが、クローゼットにあった人形に目を向き直した。
零から継承権の説明を受けた後なのだから、この人形に何かあると考えるのは自然な事。
彼がカイトの方に視線を向けたのは、唯一人形が置いてない場所を選んだからなのかもしれない。
だが、実際はそうではなかった。カイトも身軽になるために燕尾服を脱ぎ、クローゼットに入れようした。その中には先程までなかったはずの人形が新たに増えていたからだ。