共感
「……メアリ様」
「ごめんなさい」
カイトがメアリの側に寄り、彼女の名前を口に出すと、小さな声で謝罪の言葉が出てきた。
謝るという事は、メアリが零と会話した内容を口に出来ないという事なのか。
「そんなつもりはなかったのですが……つい」
『そんなつもりはなかった……一体何の事を言っているんだ? 零との会話内容を話すのを拒否したわけではないと?』
「メアリ様には感視以外にも特殊な魔法があって、それが発動したんです。様々な条件はあるのですが、それが一致すると詠唱もなく、魔力もそこまで減る事なく自動的に」
彼女がカイトに謝ったのは一日で限られた魔法回数をここで使用してしまったからだろう。
これに関しては、協力関係にあるキスにも伝えなければならないだろう。
『それは……自白をさせるような魔法なのか?』
そうであれば、感視で感情を読み取るよりも確実に共犯であるかを突き止める事が出来る。だが、条件を満たす必要があるらしく、それが難しいのだろうか。
「……少し違います。共感の魔法で、共感した事柄について話してしまうだけ。そこに嘘は混じりません。お互い疑い事なく、リラックスした状態。ある程度の時間、メアリ様と目を合わせる。会話する時間が長くなるにつれ、発動する確率が高くなりますね。それはメアリ様も気になっているからだと思いますが」
メアリが使ったのは共感の魔法。彼女が会話を楽しむだけでなく、相手もそう思わせる必要がある。そうしている内に自然と話題が弾み、口を滑らせる。
魔法としては使うのが難しい。それも自動的に発動するのなら尚更だ。
『なるほど……そこまで使える魔法でもないわけだ』
「ですが、メアリ様と零が共感したという事は、主従関係に似た面があったのではないでしょうか? 僕もそこは気になります」
メアリと零が話していたのは主従関係だけなのか。館外で聞いた立場逆転の話。
メアリ自身、魔法使いの数が減っている事は知っている。従者、魔法が使えない人間が増えている事。
先の未来、魔法使いが姿を消す可能性があると。
これは零がカイトに伝えた事だが、メアリにそれを話してしまったのか。
キス相手では話さないだろうが、メアリは従者を大切にしており、中立よりも従者側に立っていてもおかしくはない。
彼女はこうも言ってきた。この出来事が魔法使いと従者の立場が逆転する分岐点になると。それが書かれていた紙があったらしいと。
ディアナ、アルカイズ、キスの三人よりも、メアリが立場逆転に関係していた可能性があるのではないだろうか。