聞き役
「零がカイトの事を聞きたいと言ってきたので」
メアリが率先して彼の話をしたわけではなく、零から話を振ってきたらしい。
「それはそれでどうなのよ。従者同士で気になるのは分かるけど……聞くとしても、メアリの事を聞くべきだわ」
魔法使い側が従者の自慢話をするのはいいが、他者の従者が魔法使いを差し置いて、その従者に興味を示す。それは魔法使いを馬鹿にしているようだと、キスは感じたようだ。
「最初は私の事も聞かれましたが……自分の話をするよりも、そちらの方が楽なので」
「まぁ……自身の自慢話だけで、本音や重要な事は語らないのが魔法使いだから。確かにメアリは向いてなさそうだわ」
零が調理場から食堂に戻ってくる。キスとカイトの二人分のカップを持ってきた。お茶に関してはテーブルの上にポットを置いている。
「そうですね。彼女が戻ってきたようです。彼女は片手しか使えないので、ポットはテーブルに置いてます。先程入れ替えたばかりなので、熱くなってますよ」
零は片手しか使えない状態であり、メアリとの談話中、テーブルの上に置く事をメアリが指示したのだろう。先にそれをキスに伝えた。
カイトはすぐに立ち上がり、キスのカップにお茶を注ぐ。
零は片手しか使えないのであれば、この仕事はカイトの役目。
毒味に関しては、零が先にしているのだろう。メアリも自身のカップに入ったお茶を口にしている。
「すみません。メアリ様と壱との主従関係について、聞いてみたくて。キス様の」
メアリ達の会話が聞こえていたのか、零はキスに頭を下げた。そして、メアリとカイトの主従関係を聞いた以上、キスと従者の主従関係も聞くべきだと彼女は質問をしようとしたが……
「取って付けたような質問は必要ないから。私やディアナ達とは違って、メアリとコイツの主従関係が特殊なだけよ」
メアリやディアナ、アルカイズが従者にどう接していたかは、館にいる間に何度も見ているはず。わざわざ質問する事ではないと、キスは拒否する。
「……分かりました。メアリ様と壱の話を聞こうとしたのは間違いないのですが、逆に私が言わなくてもいい事を多く話す事になってしまい……」
メアリが零に多くを語るのではなく、聞き役になっていたようだ。つまり、零が館の主、ゴールド=ゴールドについて話した事になる。
それを零本人が口にしたのは、メアリに話してしまったのもあるだろう。
『それは私達も知っておくべきだな。とはいえ、彼女もメアリに話すとは。これも主に対する疑いがあるから……とは考えにくいな』
メアリは零と主従関係についての談笑をしていた。談笑というのであれば、貶めるような言葉を発していないはず。
彼女がそれを快く思わないのは、零も今までの出来事を踏まえると承知済みだろう。




