謎解きは蜜の味
「なるほど……それがカイトが持つ謎だな。魔法使いの館で起きたであろう殺人事件。謎としては……簡単そうであるが、小腹を満たすには丁度良い」
「小腹を満たす……一体何を」
死神はカイトの側を離れ、数多くある本棚から、幾つかの本を抜き出していく。
「私は謎解きが好きでね。それで欲を満たしてる。君が持つ謎を解くチャンスを与えようと言ってるんだ」
「ほ、本当ですか!? けど、どうやって……貴女が真相を教えてくれる……わけじゃないですよね」
カイトが死神の言葉に喰い付くような顔をしたのも束の間、『チャンス』という言葉も思い出し、彼は警戒した表情に変わった。
「この事件における死者達の記憶、本を媒体に擬似的世界を生み出す。その世界では事件が再現されようとするはずだ。そこに君を介入させ、事件を解く機会を与える」
死神が持つのは四冊の本。カイトの記憶から参加した魔法使いの情報を手に入れたのだろう。しかも、その本があるという事は、彼等はすでに死んでいるという事だ。
「その中に主の記憶も!?」
「君に本の中身を確認させる事は出来ない。加えて、私が作り出すのは擬似的世界であり、過去に戻れるわけじゃない。君が介入する事で事件に変化は起きる。メアリ=アルザスを守れたとしても、それはこの擬似的世界で起きた事に過ぎない。彼女が死ぬ事は決定している。真相を知るだけの自己満足で終わるだけになるが」
カイトが事件の犯人、真相を知ったとしても現実に変化は起きない。彼の自己満足に過ぎない。死神の欲は満たされる事にはなる。
「それともう一つ。チャンスを与えるだけで、必ず真相が分かるわけでもない。君がこの疑似的世界で犯人に殺される事もあるからだ」
「殺される……けど、僕はすでに死んだ身だから」
彼は死んだ事によって、死神探偵事務所へ迎えられた。この身でもう一度死んだとしても、何も変わりはないのではないか。
「魂自体が消滅すれば、転生は不可能。生まれ変わる事自体が無理になり、存在が無くなる。私も君を忘れ、本に記憶される事もない。転生後、主の生まれ変わりと会う可能性があったとして、それも消えてしまうわけだ」
違う世界でカイトと主が別の姿で出会える可能性もある事を、死神は示唆する。
「けど……それは今の僕と主ではありません。別の僕が主と再会しても意味がない。失敗して、魂が無くなろうとも、僕は挑戦したい。その代償は……」
「この場に来れただけはある。代償は必要ない。この謎で十分事足りる。君の主が亡くなった舞台、擬似的世界を用意しよう」
死神である彼女は死者達の本をまとめ、新たな本を生み出した。そこには『魔法世界の殺人』と題されている。
その本をカイトへ開いて見せるが、何も書かれてない白紙の状態。
「この本は君が主人公となって、描く物語。結末は君の死、もしくは犯人を見つけ出し、自白させる事。証拠だけでは不十分。犯人に認めさせなければならない」
カイトの魂はその本に吸い寄せられていく。
「私は君と同じ視点で観察、本を読ませてもらい、推理を楽しませてもらう。私の声は君に届くわけだが、その時は答えて欲しい。返事は声に出さず、頭に思い浮かべたらOKだ。私の言葉が犯人を特定するヒントになる可能性もあるかもしれない。逆に、君が私に質問する場合、答える事は限られてると思っていてくれ」
死神はカイトが完全に本へ吸い込まれると、一旦本を閉じた。そして、一枚目のページを捲る。
そこには文字が次々と書き記されていく。場面はカイトとメアリが魔法使いの館に向かうため、馬車を走られているところだ。