ねじ曲がり
「中に入っている物が、花を枯らした原因なんでしょうか?」
『あの紙束の中にそんな魔導具はなかった気がするが……侵入者が用意したのか?』
この花瓶が魔導具とは知らず、中に何かを隠したのか。だが、魔法使いであれば、魔導具だと気付くはず。従者の方がした事なのか。
「下に落としてみましょう」
カイトは花瓶を逆さにして、中に入っている物を下に落とす事にした。
「……出ませんね」
花瓶の中から音はするのだが、下に落ちる気配がない。引っ掛かりがあり、落ちにくくなっているのだろうか。
「次は……中を覗いてみますね」
カイトは花瓶の中を覗き込む事に。花瓶、壺の魔導具となれば、何かあるとすれば、内部だろう。
出来る事なら、覗き見る事は避けたかったが、調べる他ない。
『中にあるのは……鍵か? だが、こんなに底が深いはずはないぞ』
「そうですよね。僕には何も見えなくて……魔導具が起動しているんじゃないですか!?」
普通の花瓶であれば、カイトの目でも底は見えるはず。それが底なしのように先が見えない以上、魔導具が動いているとしか考えられない。
だが、花瓶に魔力をどうやって補充したのか。
魔法使いの侵入者はすでに館の外に出ており、中にいたのはその従者ではなかったか。
「ま、待ってください。目が……底から目が離せなくてなってます」
カイトは魔導具の花瓶の何も見えない闇に吸い込まれるかの如く、そこから目が離せなくなっている。
彼の体は金縛りにあったように動けず、自力ではどうする事も出来ないようだ。
『何だと……であれば、七を呼ぶしかない。無理矢理にでも、花瓶から引き離してもらう。そのために行動を共にしているはずだ。声は出せるな』
七と行動を共にしているのは、魔導具で何か起きた場合、助けを求める事も協力に含まれているはず。
カイトと死神は頭の中で会話しており、時間も止まっている。彼が助けを求める声を出せるかどうかだ。
「それは何とか……誰かの視線を感じるような気が」
カイトは動けない状態で、何処からか誰かの視線が突き刺さるのを感じた。下手に体が動かなくなった事からそう感じるのか。
それとも、花瓶の中から逆に覗かれているのか。
「花瓶から? ……じゃなくて、背中に」
彼が感じる視線は背中。食堂側からだ。七がカイトの姿が見えなくなった事で、見に来てくれたのかもしれない。
背中だけを見れば、七も彼が花瓶を調べているだけと思ってしまう。
「壱」
カイトが声を掛けるよりも先に、七が名前を呼んだ。
「はい!! 魔導具が起動したみたいで、花瓶の中から……」
『おい!! 景色が歪んでるぞ。本格的に魔導具が起動したのか? 何がスイッチに』
カイトの目には分からずとも、死神の目には変化があった。周囲の景色がねじ曲がっていく。
そして、最後には暗闇になってしまった。




