枯れた花
『……待った。あそこには台があるだけで、何もなかったはずだぞ』
カイトは階段近くの壺を見るために移動する中、死神の目が気になる場所を見つけた。
それは階段奥。大時計がある場所よりも更に奥にある場所。館の入口からでは見えなく、食堂入口に沿った端の位置だ。
そんな場所でも、アルカイズ捜索時に確認はしている。台は設置されていたが、花瓶や壺はなかった事を死神は記憶している。
「……花が飾られてますね」
それなのに、今は花瓶だけでなく、その中に花が飾られていた。
『しかも、お誂え向きに絵に描かれた花瓶だぞ。あれは』
そこにあったのは花だけでなく、探していた花瓶が置いてある。
人目に付かない場所に、この花瓶を誰かが移動させたのか。
見つけるタイミングとして、怪しい部分がある。だが、魔導具を調べるにあたり、花瓶や壺を選んだのはカイト自身。
七とカイトが見つけるのが逆だった場合もある。
『だが、七からは視覚外の位置になるか』
「距離的には問題ありません。七が食堂の扉前まで来れば、僕の姿は見えるはずですよ」
カイトと七の距離が離れたわけではない。七が少し移動すれば、カイトの姿は見える事は確かな事だ。
食堂内にいる事でカイトの視界からも七が消える可能性もあった。それぐらいは許容範囲内だろう。
調べるべき物が目の前にあれば、早く見に行きたいと思うのは自然だ。抗う事は難しい。
死神もそれを止めなかったのは、目の前の情報を優先してしまったからだ。
それに加え、魔導具は魔力なしでは効果がないという事も知ってしまったのもある。
カイトは花瓶に近付く。死神だけじゃなく、カイトの目からも気になる点があった。
「……これは最初からですかね」
『難しいところではあるな。枯れている事に何の意味があるかだ。絵に書いてある花だと思うのだが』
花瓶に挿されている花はすでに枯れた状態になっていた。
わざわざ枯れた花を挿す理由があるのか。それとも、時間の経過で枯れたのか。
この場所に花瓶は置いてなかった事から、どちらだったのか判断がつきにくい。
「……触れてみますね」
間違いなく、絵に描いてある花瓶だ。花瓶に施された紋様が似ている。
カイトは恐る恐る花瓶に触れた。何も変わった感じはなく、魔力が無ければ、普通の花瓶と同じのようだ。
次に花に触れ、花瓶から抜こうとする。だが、それまでに花の形を保てず、散り散りに砕けていく。
『普通はここまでの状態にならないぞ』
「ですよね。次は花瓶を持ち上げてみます」
触れても何も問題がなかった事で、花瓶を持ち上げてみる。すると、中から音が聴こえてきた。
花瓶の中には花以外の物が隠されているようだ。




