治療
☆
「無事に戻ってこれたわね」
キス達は館に戻り、一息ついた。
焼却炉のある小屋を出て、館の入口までほんの僅かな距離ではあるのだが、侵入者の襲撃はなし。
七が単独で館を守っていたのだが、そこを襲う事もなかったようだ。
彼の場合、焼却炉で見つけた人形の事もある。予知や思惑が外れた以上、安易に殺せなかった可能性も十分ある。
「館にいた侵入者も外に出た以上、安全を確保したいわね。あちらが手出しするのも、あの状態では時間を要するだろうし。今がチャンスね」
赤の侵入者は左腕を無くしている。その治療のために時間が必要のはずだ。
黒の侵入者もあの場で手を出して来なかったという事は、赤の侵入者を治療しているのかもしれない。
「侵入者の左腕は燃えているはずです。主であっても、無くなった物を再生させるのは無理だと思いますよ」
零の言葉は自身の主を疑っているようにも取れるが、気の所為か。
焼却炉が作動し、炎が点火した事はカイトと零が確認している。上の小屋にあった煙突から煙も立ち昇っていた。終了までは時間が掛かり、最後まで見る事は出来ないのが気掛かりではある。
だが、人形以外に怪しい物はなかった。いや、すでに取られていたのかもしれない。
「それを考えると、七を待機されて正解だったわ。壱じゃなく、七が焼却炉の中に入っていたら、その場で焼かれたかもしれないからね」
小屋を出た後、キスに七の人形を渡したが、今は本人が所持している。気味が悪いのもあるが、本人が持っているのが一番安全だろう。
「それも重要ですが、まずは彼女の治療をしないと。薬は……調合室にあるのですか?」
メアリは自身の事よりも、零の傷を心配している。時間の経過で体調が少し戻ったのか、キスの助けなしで動けるようにはなっている。
「いえ……二つある大時計の一つにあります。自分で取り出すので大丈夫ですよ」
治療用の薬等は大時計に隠してあるようだ。外で怪我をした時の事を考えれば、入口付近に置きたいのは分かる。
「アイツ自身がそう言ってるのよ。七、アンタが手伝いなさい。私達はやる事があるから」
キスは零が大時計に向かい、治療するのを肩を貸しているカイトではなく、七が助けるように指示する。そのため、カイトと七が入れ替わる事に。
「彼が手伝ってくれるのでしたら、問題はないと思いますが、私達というのは……キス様と私ですよね」
キスの『私達』という言葉の中にカイトが含まれないのは、魔法使いしか出来ない事だからだろう。
でなければ、零の手伝い等せず、カイトと七の二人で何かをさせたはずだ。




