視線
『ともなれば、侵入者はやはり館の主と繋がっていると思わざるを得なくなるのだが……零とは別の従者なのか』
間違えず、操作出来るのはゴールド=ゴールの従者のみ。刷毛棒が無造作な軌道で動いている以上、操作された可能性はある。だとすれば、赤と黒の侵入者が零とは別の従者だとしても、おかしくはない。
『調理場からゴミが来た時、あれの動きを見てない以上、本人に問い詰めるのは難しい』
当然、侵入者がゴミ袋を取って行った事も、中身が分からない以上、侵入者達に協力したとも言い切れない。
「決定的な物を見つけるまでは、下手にメアリ様達に伝えない方がいいわけですね」
一番良いのは隠し通路が見つかる事だが、侵入者が何か落としているのもありではある。
「ここに腕を置いてもいいでしょうか?」
赤の侵入者の腕を置く場所を、左側の端で良いのかを零に尋ねた。斧と腕を持つ事でカイトの両手は塞がっている状態。
本命である奥の壁には斧を押し当てながら進むよりも、手で触れた方が良いとカイトは考えたのだろう。
「左側の奥ですね。大丈夫です。中央が一番と言いましたが、ゴミと一緒に強く燃えるはずですよ」
「助かります」
零は焼却炉の中央を薦めてきたが、別の場所に置いても問題はなさそうだ。
カイトは腰を下ろし、腕を置いた。そして、ふと目線が下になった事で、焼却炉の全体を見回した。その方が足跡等がよく見えると思えたのかもしれない。
『やはり、あちら側の明かりだけでなく、こちら側も光が欲しいところだが』
死神の目があったとしても、光がない分、見落としたは出てしまうのだろう。
「……ちょっと待ってください。誰かに見られている感じがします」
カイトは何処からか視線を感じたようだ。零が彼に視線を向けている事は、本人も分かっているはず。
『……誰かいる気配はないぞ。隠し通路から覗き見でもしているのなら、光が漏れていそうなものだが』
死神もカイトの言葉に気配を探るが、零以外に誰もいない。ゴミを漁りに来たネズミ等がいてもおかしくはないが。
「気の所為ですかね。……もしかして、あれかも」
カイトは反対側の右端に目を向けた。そこにはゴミ袋があるだけに見える。
侵入者もいなければ、消えた十や三の死体があるわけでもない。ただ……
『君が言おうとしていた事が分かった。侵入者が置いたのか、調理場から落とされたかの判断が難しいところだが。一番の問題は誰の人形かだ』
カイトが感じた視線は人形。ゴミ袋の側に置かれており、こちらに顔を向けていたのだ。
人形ともなれば、消えたメアリ達の人形の一つだろう。それが誰を示している人形なのか。
隠し通路の事もあるが、カイトはそれを確認するために移動し始める。




