更新
「そういえば……疑問に思った事があるのですが」
『何だ? この焼却炉についてか』
カイトは壁を注視し、手に持っている斧で触れながらも死神に尋ねる。彼女も彼の質問に対して、すぐに受け取るようになっている。自分とは別の考えも必要だと感じているのだろう。
幾つか気になる点があってもおかしくないが、今集中すべきは焼却炉の中。それはカイト自身も分かっているはず。零の言葉も気になるところではあるが。
「それもあるんですが、この擬似的世界はメアリ様達の記憶を元にして作ったんですよね? この焼却炉のある小屋も地図にはなかったわけで、僕達が見ているのは……今思えば、館の周囲もそうなんですけど」
死神が作った擬似的世界は死者達の記憶を元に再現されている。彼女達の記憶にない場所はどうなっているのか。
『簡単な事だ。この擬似的世界は成長……更新している。君がいる時点で展開が変わるのは当然だからな。その変化に対応している。それは分かるだろ』
カイトが参加する時点で筋書きは同じでも、別展開になるのは当然。それは彼も頭では分かっている。
『メアリ達の記憶だけでなく、君の世界の情報も取り入れている。この焼却炉や館の周囲も存在していたものだ。架空の物ではないぞ』
この焼却炉のある場所も、館周辺の景色も実際に存在していた。
カイトが直接目にする事で、この世界で確定したとも言えるのかもしれない。
零もこの焼却炉に訪れた事があるのだから、内部が間違っている事はないだろう。
『君の意識が途切れた事もあっただろ。それも新たな更新の負荷による物だったのもある』
「なるほど……意識を失ったのには、そういう理由があったんですね。納得しました。僕達の行動によって変化するのは分かっていたのですが」
カイトも納得した様子だ。死神の説明もあながち間違いではないが、全てを話しているわけではない。
『……こちらの説明が足りなかっただけだ。奥の壁には噴出口は無さそうだな』
焼却炉の奥に到着。壁端にゴミが集められている。といっても、ゴミ袋の数は数えるくらい。逆側にあったとしても、それ程の数ではなさそうだ。一杯になると、別箇所へと刷毛棒が移動させるのだろう。
『隠し通路があるとすれば、噴出口がなく、館側にある方ではあるが』
魔導具の誤作動、安易に触れないためにも、隠し通路は危険でない箇所を選ぶ。
隠し通路自体が魔導具ありきであれば、零がいる側での操作も必要となりそうだ。
今は開かなくとも、継ぎ目のような物が見つかれば収獲になる。
「そうですね。後は……彼女が捨てたゴミも気にしてましたよね」
調理場で零が捨てたゴミ。カイト達がこの館に来て、三日目ともなれば、ゴミを捨てるのは当然ではある。別段気にするところではないのだが。




