地下
「助かります。危険な場所ではあるので、無闇やたらと物に触れないでください。スイッチを押せば、小屋の中も暑くなり、火傷するかもしれないので」
キスの命令というのもあるが、零も簡単に協力を受け入れた。中を見られたくないのではなく、本当に臭い等を考慮してくれたのか。
「分かりました。……ここには鍵はないのですね」
カイトが赤の侵入者の左腕を受け取った事で、零の右手が空き、彼女が小屋の扉を開いた。その時に鍵を使用する事はなかった。
「そうですね。取られるような物はないですから。ここから館に侵入出来るとも思いませんし」
焼却炉を通じて、館内に侵入。調理場のゴミ捨てから見て、人が通るのは難しい事は分かっている。
『鍵がないのなら、逃げた侵入者がここに隠れていてもおかしくはないが……血の跡はなかったな』
黒の侵入者はともかく、赤の侵入者は腕が切られた状態。すぐに血が止まるわけもなく、移動の痕跡は残ってしまう。
キス達とは反対側から移動したとしても、扉付近に血の跡は残るはずだ。
流石に黒の侵入者も赤の侵入者と合流するはず。ここに隠れている可能性は低い。
「扉は開け放しにしなさいよ。私達も離れて見るから」
キスも気になるようだが、臭いが嫌なのか、中へは入るつもりはないようだ。
「それは……少し厳しいと思います」
零がそう言うのも無理はない。扉を開けて、すぐに目に入ったのは下へ続く階段。
調理場のゴミ捨ては下り坂になっており、捨てた物はそこを流れていく。となれば、同じ階にあってはおかしい。
『焼却炉は地下にあるという事だな』
「地下という事は……もしかして」
『零にバレないよう、怪しい場所を調べる必要があるか』
メアリ達の記憶の中に地図では、地下が記されたのは一箇所のみ。それも何処から入ったのかも分からない。
何者かに連れて来られ、そこで死んだと予想出来る。そこに繋がるのが焼却炉のある部屋かもしれないのだ。
「下に行く階段ですか? 私達も下に行かなければ、確認出来そうにもないですね」
「……中に入らないわよ。メアリもだから。臭いで余計に体調悪くしたら面倒でしょ」
メアリもカイト達と一緒に下へ行くつもりのようだったが、キスがそれを止めた。メアリの体調を更に悪化させるわけにもいかないのもあるが、汚い場所には行きたくないのだろう。
「僕達だけで大丈夫です。腕を置いて、焼却炉を使うだけですから。明かりもあるようですし」
小屋の扉を開けるのと同時に、階段の奥から僅かながら明かりが灯っていくのが分かる。それがなければ、暗闇の中を進む事になっていたかもしれない。




