鎖の魔法
キスの魔法が発動。赤の侵入者はそれをいち早く察知して、この場から逃げる事を選択したのだ。
彼女の手の平から出てきたのは鎖。それが逃げる赤の侵入者へと伸びていき、左腕に絡まる。そして、回収するかのように、キスの元へと引き戻していく。
赤の侵入者は力で抵抗を試みるが、キスの魔力が上。従者が魔法使いに勝つのは難しいという事だ。鎖を剣で切るのを試みているようだが、魔法の鎖により、空を切る。剣が鎖に触れる事が出来ない。
「本当は殺したかったけど、二人を巻き込むとメアリが怒るからね。アンタの主の事も聞かないと駄目だし」
「助けに来てくれるのなら、もっと早めが良かったのですが」
零もメアリとキスが来てくれた事に安心している。勿論、赤の侵入者がキスの鎖の魔法で捕らえられているのもある。
「メアリ様、キス様!! 気を赦しては駄目です。離れた場所にもう一人いるんです。相手はボウガンを所持しているだけでなく、魔法を使ってくるかもしれません!!」
赤の侵入者を捕まえたとしても、黒の侵入者がまだ残っている。
キスが水晶玉で見たのは赤の侵入者のみ。黒の侵入者の存在を知らないはず。
赤の侵入者が零やカイトを早々に仕留める事をしなかったのは、メアリ達を館の外に出てこさせるためというのも考えられるのではないか。
「侵入者は魔法使いと従者の二人いるのは分かってます。零の腕に刺さった矢が証明してますから」
メアリもカイトの心配だけでなく、零の腕に矢が刺さっている事にも気付いている。
彼女がカイトを庇う姿を見たのを、キスが言葉にしていた。
メアリがカイトと零に駆け寄り、先に零の腕の具合を見ているぐらいだ。矢に毒が塗られている可能性もあるからだ。
「こっちは魔法使いが一人でなく、二人いるのだから、ここは相手も一旦逃げるでしょ。魔力を一切感じないもの」
キスは視線を森の方へ向けた。黒の侵入者が赤の侵入者を助ける素振りはないようだ。魔法が唱えられる様子もない。
もしかしたら、侵入者はメアリだけが来ると予想したのかもしれない。そうすれば、カイトとメアリを同時に殺せると。
彼女を誘き出すため、カイトをすぐに殺さなかった。予想外だったのは、メアリと共にキスまで助けに来た事だろう。
自身の従者でない者を助けるとは、侵入者も考えていなかったのだろう。
「それだったら良いのですが……七の姿が見えないのですが」
カイトと零が侵入者に襲われているのであれば、キスは自身を守るために七を側に置くはずなのだが、その姿が見当たらない。
カイトと零の二人が館内にいない間に何か起きたのか。やはり、侵入者は二人ではなく、三人いたのか。




