七
「良い料理の腕をしていますね。貴女の主が亡くなった際、私が面倒を見てあげても構わないですよ。ただし、一番は十と決まってはいるのだけれど」
ディアナは零が作った料理に太鼓判を押した。継承権が終わり、主から離れる事になった場合、ディアナが零の面倒を見る事を提案した。
「……考えておきます。主がいなくなったわけではありませんから。それに……」
零はその提案を保留にする。
「従者自慢は置いといて、仕えるとすれば、一番優秀な魔法使いが良いでしょ。コイツは生意気にも見極めようとしてるんじゃないの? 勿論、一番は私になると思うわ。けど、私はアンタを必要としてないから。七と屋敷にいる従者達で十分。人の垢が付いた従者はいらないわ」
キスもディアナ同様、自身の従者の実力を信頼しているのだろう。それも連れてきた従者は主達にとっての一番優秀な従者だと考えられる。
そして、ここでキスの赤従者の数字が七だと分かった。
「では……私も候補に入れて貰おうか。君は美人だからな。手元に置いても問題ない」
アルカイズは肉を頬張りながら、零の方に目をやる。従者としての能力というよりも、見た目で判断しているようだ。
『流石に君の主は手を挙げないか』
メアリは零争奪に参加せず、モクモクと食事をしている。キス同様、今いる従者だけで十分だと考えているからだろう。
更に言えば、零は館の主の従者であるが、命約に縛られていない。カイトのように感情も垣間見れる。
メアリや館の魔法使いの従者に対する扱いが稀であり、それを彼女が良しとするか。
『それに……ディアナとアルカイズが彼女を従者に出来る事はないのだから』
この館の出来事の結末はすでに決定している。ここは死神が作り出した擬似的世界に過ぎないだ。
カイトの頑張りでメアリ生存と多少のズレが生まれても、現実には何も影響を与えない。
「その話は継承が終わってからすればいいでしょ。重要なのは従者の方じゃないのよ」
本来の目的は魔法の継承であって、零を従者に迎えるのはオマケに過ぎない。
「そうですね。そちらの方はまだ時間の猶予がありますから」
「こちらも先の予定が色々とある。出来る限りは早めに継承を終わらせたいからな」
二人はキスの言葉に納得し、黙々と料理を口に運んでいき、継承権の説明を聞く準備を進めていく。
「全員食べ終わったわね。食後のコーヒーやデザートなんかは必要とか言わないでよ」
キスはメアリ達が料理を食べ終わったのを確認し、零に継承権の説明を催促するような視線を送る。
「……私達が説明を受けている間、この場で従者が食事をするのはいかがでしょうか? 従者が主と同じ場で食べるのは違和感はあると思いますが、今回従者は一人しかいませんから」
通常、従者は魔法使いと同じ場で食事する事はない。主の側にいた従者が食事をする場合、別の従者がその間を受け持つ。
例外として、メアリは従者はカイト一人であり、一緒に食事をしている。




