赤の燕尾服
「……魔法使いだから、ボウガンを使い慣れてなかった? だったら、魔法を唱えられる前に」
死神の咄嗟の声にカイトが反応したのもあるが、侵入者自体がボウガンに慣れず、間違えて撃った可能性もある。
キスやメアリも武器の扱いに慣れていなかった。だとすれば、攻めた方が安全なのかもしれない。
こちらはカイトと零の二人いる。魔法使い相手だと二人でも厳しいが、魔法の回数制限があるのなら、話は変わってくる。それも三相手に一度は使用しているはずだからだ。
「零!! どうにかして、奴を捕まえましょう」
すぐ後ろに零がいるはず。彼女と連携して、侵入者を捕まえる。カイトはナイフを構えて、一歩踏み出そうとした。
「残念だけど……それは難しいです」
まさかの零がそれを拒否。彼女は侵入者の共犯。今この場でカイトを殺せば、キスもそれを知る事になるはず。
魔導具を外しても、カイトが戻らなければ、犯人側と疑われる。
いや、その前に彼女の声自体、焦りの声ではなかったか。そちらに目を向けるのは、侵入者から目を離す事になってしまう。
それは危険だ。相手を逃がす隙を与えるだけでなく、詠唱を完成された場合は死を意味するかもしれない。
『……足音が二つ。零とは別の気配があるな。君と同じ様に対峙しているかもしれない』
「対峙って……侵入者が二人!? 一人はまだ館の中にいるのでは?」
侵入者は魔法使いと従者の二人だと予想されている。その一人、従者は館内に潜んでいると考えられていたが。
館の入口の鍵は内側から七がしたはずだ。
だが、外側はともかくとして、内側からなら鍵を解く事、破壊する事は可能ではないか。
メアリは気を失った状態。キスはカイト達の動きを水晶玉から確認しており、そちらに集中している。
七も二人の警護にあたり、食堂から動けない。侵入者が入口に行く隙は幾らでもあるのかもしれない。
カイト達の後ろを突けたのもそのせいか。
「もしかして……そっちにもう一人の侵入者が」
零にそれを尋ねる。ニ対ニなら圧倒的に不利。勝負になるかも分からない。
「……はい。そちらの姿は見えないけど、そっちもですよね」
零はまだ曲がり角の先を見れていない。侵入者が黒の燕尾服を着ている事を知らないのだ。
「こっちは……仮面をつけてますが、キス様の従者、赤の燕尾服を着ています。それも剣を持っているという事は」
零側にいる侵入者は赤の燕尾服を着ており、剣を武器にしている。仮面を付けていても、七なのではないかと疑ってしまう。
入口の鍵を掛けなくても、七自身が鍵を所持しているわけだ。
キスの指示によって、七が動き、水晶玉から零達を殺すのを確認しているとも。




