黒の燕尾服
「……そうですね。メアリ様がいる以上、僕はメアリ様側につきます」
カイトはそこを曲げる事はない。その解答に零も納得した顔をしている。答え次第で何かしてくる様子もない。
「おっと……こちら側では何も起きなかったですね。罠も使われた様子もないです。像の影に……隠れてもなさそう」
館の入口から出て、血の跡があった右回りに進み、二度目の曲がり角に差し掛かる。入口の裏側にあたる。
血の跡は消え、侵入者が罠を仕掛けている事も今のところはない。三の死体も館の右側にはない。
死神も何かを見つけていれば、カイトに教えるはずだ。
次の曲がり角。カイトは館から少し距離を取っている。侵入者が館の影に隠れて、不意討ちを仕掛けてくるかもしれないからだ。
『カイト!! 後ろに下がれ』
曲がり角に一歩踏み込み、体が出ようとした直前に死神の声がカイトの頭に響き渡る。
いきなりの怒声にカイトの体も自然と後退した。その直後、眼前に何かが通り過ぎるのが分かる。
それは矢。死神の声がなければ、カイトの頭に突き刺さっていただろう。
それにしてもタイミングが良すぎる。彼等の会話が聞こえていたのだろうか。
死神が気付けたのも目ではなく、矢を撃つ音が分かったのかもしれない。
連続で撃つのは難しいはずだと、カイトはすぐに矢が飛んできた方に移動した。侵入者が近くにいるはずだからだ。
「お前がメアリ様達を……」
カイトの目に侵入者の姿が映った。その手にはボウガンがあり、相手が撃ってきたのも間違いない。
だが、侵入者の服装に目を疑った。
顔を全体を隠すマスクを着けているのは、素顔を晒さないため。侵入者は正体を知られたくないのなら、そうするだろうとは誰もが思うだろう。
しかし、問題なのは服装だ。侵入者が来ているのが黒の燕尾服。
カイトと同じ。メアリの魔法使いの色である、黒の燕尾服を身に着けているのだ。
勿論、メアリにカイト以外の従者はいない。カイト自身が知らないだけ……というのはないはずだ。
よくよく見ると、カイトの着る服と少し違う。色が同じだけだ。
それは彼だから分かる事。零の目にはどう映るか。それよりも零が見る事で、キスが見る水晶玉にも侵入者の姿が映ってしまう。
彼女がそれをどう判断するのか。メアリとの協力関係を破棄しかねない。それだけで済むかどうかも問題になる。
『今はそんな事を考えている場合じゃないぞ。まずは君が生き延びなければならない。相手の持つボウガンに矢は装填されてないが、魔法を使用してもおかしくないはずだ』
カイトが死んだ時点で、擬似的世界は消滅する。侵入者の服装を気にするよりも、生き残る事を優先しなければならない。
服装に気を取られがちではあるが、外にいるのは侵入者は魔法使いではなかったのか。
魔法の回数制限を気にして、ボウガンを使用した。それが失敗したのであれば、魔法を唱えてもおかしくはない。




