聞かせられない話
『曲がり角の直後で血の跡は途切れた。流石にここで気付いたのか。森側に向かったにしても、血の跡は残るはずだ。……気になるだろうが、足は止めては駄目だぞ。動いた方が的にされにくい』
カイトは零と話しながらも足は動かしていた。曲がり角も意識して曲がってはいるが、血の跡が消えたところまでは見えていない。
そこは言葉通り、カイトは死神に任せているようだ。
だが、動かしていた足も、零の返事で止める事に。
「す、すみません。でも、彼女の言葉が気になって」
『……仕方がない。気が散漫になって、転んでしまう事にもなりかねないか。少しの間だけだ。話の途中からでも足を動かすように。彼女が言う予知が合っているか。君なら知っていてもおかしくはないからな』
「……そこまで詳しくはないです。メアリ様の行方不明の事だけを考えてましたから」
カイトが亡くなったのは二十歳。この出来事から五年も先だ。それまでに魔法使いと従者に変化は起きたのか。
彼はメアリの行方不明の事に集中していたせいで、そこまで世間の事を知らないようだが。
「それは……メアリ様達が死ぬ事を事前に知っていたという事ですか?」
この先の事が予知されているのなら、メアリ達がどうなったのかを零が知っていてもおかしくはない。
「知りませんよ。予知といっても大まかな話です。壱が来たみたいに予知が外れる事もありますから」
この出来事よりも先の事。それを館の主が零に伝えたのは、彼女が生き残る事を示しているのか。
「もっと先の事だと思います。メアリ様達がどうなるかは聞かされてませんから。これは二人には言えない事です」
二人というのはメアリとキスの事だろう。流石に魔法使いには聞かせられないだろう。
「……これは他の従者、七や三、十にも話したんですか?」
零は七と三の三人で一緒にいるところを、カイトは何度も見ている。その時に一度は会話に加わったが、逸らされたという事なのか。
それが原因で先に殺された……というわけではないだろう。ディアナとアルカイズを殺害するためには必要な事だ。
「いえ……この話をしたのは壱が初めてです。七の場合、キス様が何処で目を光らせているかも分からないので。三も同じ理由です」
零の考えはあながち間違ってはいないのだろう。キスは魔法で七の目を借りた事がある。目が出来るのなら、耳も借りれる可能性はゼロではない。
三の場合、アルカイズが姿を消していたのもある。何処で聞き耳を立てているかも分からなかった。
「……確かにそうですね」
メアリとカイトの場合はどうなのか。メアリはカイトを信用していて、盗み聞き等をしないと零は判断したのか。
彼女が気を失っているからこそ、カイトに聞こうとしたのだろうか。




