主の言葉
「壱は主に恵まれていると思うのよ。私も短い時間なんだろうけど、そうなんだと思う。他の三人を見た限りはね」
カイトとメアリの主従関係は他の従者からすれば、理想的なのかもしれない。零に関しては館の主の最後の従者。命約に縛られる事もなく、指示はあるが、共にいる事もない。
自分の命が尽きるのが分かり、早めに零以外の従者を解放した。もしくは、他の魔法使いに付けるようにしたのかもしれない。
館の主もカイト達にとっては侵入者の共犯、怪しい人物であるが、零だけでなく、従者としては当たりの主ではあるのだろう。
その主が亡くなった時、彼女はどうするのか。引き取ると言っていたディアナとアルカイズは殺されてしまっている。
キスが引き取る事はないだろう。メアリに関しては分からない。カイトだけにするのか、状況次第で引き取るのか。
どちらにしても、その先はない話だ。ここは擬似的世界で全員が亡くなっている。
……いや、彼女だけが生死は不明のままだ。十や七、三も本来の名前が分からず、死者の記憶の本は見当たらないのだが、魔法使い達の死=彼等の死でもある。
「それは……三の死体の事があったからですか?」
零がそう感じた決め手は、キスが三の死体を放置する事を決めたからではないか。
三は彼女の従者ではない。アルカイズの従者ではあるが、主に時間を費やした分、手厚く葬る事は出来なかったのか。
それを魔物の餌にしようとしていた。死んでも尚利用される。
零は館の主しか知らないのであれば、衝撃的なものはあったのだろう。
「そうですね。流石に死体まで利用するのは……七に対する扱いも。三や十も好きで、仕えていたとは思えません」
十がディアナの事をどう思っていたかは分からないが、三はアルカイズの事を嫌っていたのは確かだ。
「でも、生きるためなら、従者に選ばれるしかないわけだから」
従者は魔法使いに酷い扱いを受けるだろうが、それ以下もある。だからこそ、三はそれを手放せなかった。
「……零は主に従者の未来を聞いてはみなかったのですか?」
零はゴールド=ゴールの最後の従者。予知で選ばれたのだろう。彼女としても従者になれれば、今の生活から抜け出すのだ。
だが、それも短い間に過ぎない。館の主に予知の魔法があるのを知っていれば、それを知りたいと思っても仕方がないはず。
予知の魔法は自然と降りてくるもので、見たい物を見れるわけではないらしい。
もしかしたら、自身が生きている間の事しか、見れないのかもしれないのだが。
「聞きましたね。答えも返ってきました。知りたいですか?」




