未来
「血の跡がある方から行きます。念の為、零は後ろだけでなく、森の方にも警戒してください」
カイトは引き摺った跡ではなく、死神が見つけた血の跡の方向を選ぶ。
「分かりました。引き摺った跡は見つけてくれと言ってるような物ですからね。呼び寄せるための餌って感じです」
零もカイトに選択を求めた以上、文句は言わない。それは死神も同じ。
「では……行きます。庭の罠がある場所に違和感があっても言ってください。侵入者が魔力を補充しているかもしれないので」
魔導具に魔力を補充するのも回数として含まれるかもしれないが、使えない魔導具を復活させている事も考えられる。
そうなれば、そちらに視線が行き、侵入者もカイト達の裏をかきやすくもなる。
「勿論です。……あの……静かに行動した方が良いですよね。けど、壱と会話しながら進むのは駄目かな」
会話すれば、警戒の集中力は減るだろう。更に侵入者がカイトの接近に気付きやすくもなる。
一度断りを入れる以上は、零も承知済という事だ。
零は緊張をしており、それを解すために会話を必要としているのか。
緊張感は重要だが、高く過ぎても意味はない。逆に集中力が散漫になる。緊張感と集中力は綱渡りでもある。
それを受け入れるのは侵入者に居場所を教える事になり、本当に綱渡りの行動にもなる。
『構わないぞ。私が見ている分、彼女の話を聞いてやれ。侵入者の共犯である可能性もあるが、館の主の情報に関して、口を滑らせるかもしれない。彼女もそうだったからな』
死神が言う彼女というのは、三の事だろう。調合室、薬室でカイトと二人が会話する時間があった。
館の外に出る前であり、戻れないと考えていたのかもしれない。今回も似たような状況ではある。
『もしくは、彼女は君を疑っている……共犯であった場合は警戒しているのかもしれないが』
零がカイトを疑うとすれば、館の外で死体を発見した時だろう。それは逆に彼女を疑う要素でもあった。
このタイミングで会話を振るのであれば、死神が気にするのも無理はない。
「……いいですよ。緊張し過ぎも見忘れが増えるかもしれません。僕に何か聞きたい事でもあるのですか? 勿論、小さな声でお願いします」
「……ありがとうございます!! それでは……従者はこの先に未来があると思いますか?」
「えっ!? 従者の未来ですか?」
零からは予想外の質問が来た。カイトに疑いを向けた質問でもなく、自身の疑いを晴らす弁明の言葉でもない。
従者の未来。主従関係の事を彼女は言いたいのか。そういえば、三との会話もカイトとメアリの主従関係からではなかったか。




