二択
「それでは……この引き摺った跡を追いかけて」
「待ってください。それも気になるのですが、反対側に血の跡もあります。三の死体発見時にはありませんでした。誰かが移動したか……もしくは、死体を担いで運んだのか」
零は引き摺った跡を追跡するつもりだったが、カイトの言葉に足を止めた。
「本当ですか!? 両方とも死体を運んだ可能性があると……どちらかが罠なのかも。もしくは、両方共?」
零もカイトが見つけた血の痕跡を見た。確かに所々に草に血が付着している。それを侵入者は見落としたのか。それともわざと残したのか。
『それを考えれば、魔物が三の死体を運んだ可能性は低くなる。魔物がそんな罠を仕組むとも思えない。それに君や零もある事を忘れている。消えたのは死体だけではないぞ』
「死体だけじゃない? ……そうだ!! 死体の側には槍があったんだ。それも無くなっているという事は」
三の死体だけでなく、武器も消えているという事は、彼女の死体を運んだのは魔物の仕業ではない。
カイト達が見た魔物と同種であれば、武器は装備出来ず、盗む意味もないからだ。
だが、侵入者の仕業であるなら、キス達を殺すための道具が増える事になり、持ち帰る可能性が高い。
「……はい。魔物の可能性は無くしていいと思います。死体と共に武器が消えているのは、侵入者が持ち去ったと考えるべきです。もう一度、僕達が外に出ると判断しての罠かもしれない」
「確かに……魔物が武器を持っていくのはおかしいですからね……どうしましょうか? 二手に分かれますか?」
引き摺った跡と血の跡。気になるところが二つ。それも別方向を向いている。二手に分かれるように誘導するつもりなのか。
「それは無しです。それだと一緒に来た意味がありません。危険を少しでも減らすために二人で行動するわけで、単独行動は駄目です」
単独行動を取れば、一人ずつ殺される可能性が高まる。二人でいれば、どちらか一人は生き残れるかもしれない。
「キス様も僕達が別々に行動すると怪しみますよ。水晶玉でこちらを見ているわけですし」
キスは館内から今の状況を把握している。ここで別行動を取れば、カイトの動きを見る事は出来なくなってしまう。
それにだ。メアリが起きた際、水晶玉からカイトの生存を知っておきたいはずだ。
「……ですよね。館を一週するので、両方確認は出来るはずですから。どちらを行くかは壱が決めてください」
館を見回るにあたり、どちらにしても確認はする事になる。端で曲がった時に何があるのか。
侵入者は何処かに隠れて、待ち構えている可能性は高い。それをカイト達が先に見つけられるかどうか。




