眼鏡と水晶玉
「首尾はどうだったでしょうか? 問題なければ、館の仕事を続けたいのですが……」
七と共に戻ってきた零がキスに尋ねる。
「ちゃんと使えたわね。一度も映像が途切れる事はなかったわ。魔力残量からして、残り一、二時間かしらね。私達が監視しながらでいいのなら、構わないわ」
「……この水晶と、零が着けている魔導具は、キス様の物ではないのですか?」
二人の会話から考えると、用意したのはキスではなく、零。館の管理のため、彼女は単独行動、仕事の続きをしなければならなかった。
キスはこの状況化の中で、それを許さなかったのかもしれない。
「これはコイツが用意した物よ。調理場にあったの。森に食材を取りに行く時、食用か毒なのかをその場で確認するために使う物らしいわ」
零がそう言っているだけで、事実であるかはキスも分かっていない。ただ、調理場にあるのは、すでに準備されていた可能性もある。
眼鏡が魔導具であり、見た物を水晶玉に映し出すのであれば、三にそれを渡しておけば良かったはず。
彼女に何が起きたのかを解明出来たはずなのだ。
「……それを三に渡さなかったのは何故ですか? 助ける事は出来なくても、状況は見て取れたはずです」
カイトもそう思ったのか、零に尋ねる。
「それに関してはメアリも怒ってたわね。まぁ……魔導具を簡単に貸せないわよ。侵入者に奪われる可能性もあるわ」
メアリは誰よりもカイト達の事を心配していた。今更だが、零の行為は許せなかったのだろう。
ただ、キスの言う通り、魔導具を侵入者に奪われる可能性も考えなければならない。三にはアルカイズの部屋や薬室の鍵でさえも、メアリ達に預けさせたのだ。
「この魔導具は私専用だからです。私の目に合うように調整されていますから。彼女が使っても意味がなくて……使用者の変更は可能かもしれないですが、その場合は魔法を使わないと」
「コイツの言ってる事は間違ってないわ。七が試しに身に着けて、何も反応しなかった。私も同じだったから」
零が三に眼鏡の魔導具を貸さなかった理由は、零専用の魔導具だったから。
七だけでなく、キスも試したのであれば間違いないだろう。
魔導具を零専用から三が使用するように変更も可能らしかったが、そのためにキスやメアリが限られた魔法回数を使わないだろう。まして、自身の従者ではないのだから。
そのために零が口に出さなかったのも頷ける。
「メアリが動けない以上、コイツの館の仕事で動き回るのを利用する手はないでしょ」
零が館を移動する事で、侵入者の姿が見えたら御の字。キスは彼女を侵入者の餌にするつもりでいるのだろう。
「それで……試しは上々なだけに、本当にやるわけね。メアリが気を失ってる間が一番ね」




