青従者
「……行きます。僕が見聞きして、気付かなかった時はすぐにでも言ってください。お願いします」
『分かった。私からその話を振った手前、最低限は協力する。私も見落としや、聞き逃しはあると思うからな』
カイトはベッドから立ち上がる。体調は少し持ち直しただけで、メアリが魔力を吸い上げなければ、悪くなる一方だ。そのせいで何かを見逃した場合、死神がフォローしてくれるようだ。
「あっ……申し訳ありません!!」
従者の扉を開くと、前にディアナの従者である十が佇んでいた。この部屋に入ろうとしたタイミングで、カイトが先に扉を開けたのか。
十もカイトや三同様、従者の部屋を調べに来たのだろう。
カイトが横に移動すると、彼は返事もせずにスッと中へ足を踏み入れ、軽く周囲を見回していく。
『本当に他の魔法使い達が連れてきたのは無愛想な奴ばかりだな。彼の邪魔にならないうちに、部屋から出るべきだ』
死神の言葉通り、カイトは従者の部屋を後にしようとしたのだが……
「お待ちください。誰かと話しているように聞こえたのですが……貴方以外に誰かいるのでしょうか?」
不意に十がカイトに声を掛けてきた。
十は今のカイトと死神の会話が聴こえていたわけではなく、彼が部屋の前にいた時に聴こえた声だろうか。カイトや死神が知らぬうちに、十は扉を開こうとして、止めた可能性がある。
『動揺するな。私の声は君以外に聴こえる事はない。擬似的世界を作った私が言うのだから、絶対だ。先程、君は頭で浮かべるのではなく、声を出していたからな。君以外の声は聴こえなかったはずだぞ』
カイトと死神の会話時は時間が止まるのもあり、十に聴こえるわけがない。しかも、彼は魔法使いではなく、ただの従者に過ぎない。
現にこの時間、十の体は止まった状態になっている。その止まった時間がカイトの落ち着く暇を与えてくれた。
十の質問にカイトが答える必要はないのだが、これから起きるであろう出来事に、疑いを持たれるのは避けた方がいい。
「あれは独り言です。僕以外の声はしなかったはずですが?」
カイトは平静を保ちながら、彼の質問に答えた。
「そうですね。声は貴方だけでした。誰と話そうが問題ないのですが……申し訳ありません」
十はカイトに頭を下げたが、彼の台詞から疑いは消えてないようだ。メアリと連絡が取れる鈴の魔導具もあるのだから。
それに加えて、主であるディアナからも他の従者を警戒するように指示されている可能性もある。
だが、十からはそれ以上の追求はなく、部屋を調べるのに集中し始めた。
『十の言葉を気にして、この場に残るのは怪しく思われる。ここから早く出た方がいい』
カイトは十を置いて、従者の部屋から出ていく。
すると、すぐさま突き刺さるような視線をカイトは感じ取り、思わず周囲を見回した。
すぐに扉が開き、十が出てきたわけじゃない。
その視線は二階、一階からも。カイトよりも先に従者の部屋に入った三。そして、二階を探索していたキスの従者である赤従者からの視線だった。