膝枕
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「うぅ……一体何があったんですか」
カイトが目を覚ますと、メアリの膝に頭を乗せて寝ている状態になっていた。
「良かった……目を覚ました。か……壱は急に倒れたんです。だから、意識が戻るまで、こうさせて貰いました」
メアリはカイトと顔を合わせながら、ホッとした表情を見せていた。そして、カイトにだけ聴こえる声で魔力を吸い取る魔法を使用した事を伝えた。
彼女が考えるとすれば、カイトが倒れる理由はそれしかないと思っても無理はない。魔法回数を制限するため、カイトも拒否していたのもある。
「食事に毒はなかったわ。それは七だけでなく、零にも試させたから。アンタがそんな状態だから、メアリも動かないのよ。だから、今日はここまでにしたわけ。私に感謝しなさいよ」
キスが今の状況を説明してくれている。
「ベッドで休ませたかったのですが、従者の部屋が安全だとはいえなかったので」
「膝枕をする主なんて早々いないわ。メアリ、アンタの方が辛そうに見えるわよ」
従者の部屋にカイトを移動させたわけではなく、今も全員が食堂内にいる状況。
あの部屋は従者達が全員眠らされた事もあり、同じ方法を取られる可能性もあるため、使用を控えたようだ。臭いが分かるのもカイトしかいなかったのもある。
「僕はもう大丈夫です!! メアリ様こそ休んでください」
カイトは立ち上がり、メアリを気遣い、椅子に座らせる。彼女を食堂の床に寝かせるわけにもいかない。
彼女が魔力を吸い取る魔法を使用すれば、その反動でメアリの体力を奪う。
カイトが回復したとしても、メアリが動けない状態では同じ事。むしろ、悪化したともいえる。
『すまない。私と君との繋がりが一時的に止まってしまった。そのせいで気を失わせた。今後はないように調整し終えたが……メアリは君の魔力を吸収したのか』
彼が気を失ったのは、死神との接続が一時的に止まってしまったからのようだ。
死神は擬似的世界の維持もあり、カイトとの繋がりに誤作動が出ても仕方がないのかもしれない。
彼女もカイトが気を失っていた事で、何が起きたのかも分かっていない。だが、メアリの状態、キス達も冷静でいる事で、ある程度の状況は把握出来る。
「いえ……この世界を維持してもらうのは必要な事なので、これぐらいは仕方ないかと。それに……魔力も溜まってはいたんだと思います」
カイトは睡眠ガス、毒による魔力吸収を抑えたとしても、完全に消す事は出来ない。
彼の魔力による慣れもあるが、メアリにとっては彼の魔力吸収した事で動けなくなるぐらいには溜まっていたのだろう。
「メアリを部屋に運ぶのもいいけど、食堂の方が安心かもね。私もメアリが回復するまでは、ここにいるつもりだし。隣の客室は鍵を掛けたけど、他に何かあってもおかしくないでしょ」
キスとメアリも隣の客室から睡眠ガスを流され、自室で眠らされている。
自室に入られる事はなか、その部屋も施錠されはしたが、安心出来るどうかは話は別。一度そういう事が起きた時点で不安は残る。
食堂は広く、複数人で集まっていた方が安全は確保される。それはメアリだけでなく、キスも同じだ。




