酷似
「廊下に残している彼も心配です。何も言ってこないので、無事だとは思うのですが」
侵入者が逃げ出さないよう、七が廊下で待機している。侵入者が従者であれば、足止めは出来るだろうが、魔法使いであったのなら危険だ。
「アイツの心配はしてないわよ。今回もアンタ達が先に廊下へ出なさい。万が一の事もあるわ」
零とカイトが絵画室へ先に入ったように、キスは廊下も同じ様にするよう促してくる。
「そうですね。私と壱が先に……どうしました? 壱も魅入られましたか?」
「いえ……そういうわけでは」
カイトは肖像画を見ていた。だが、メアリやキスのように魅入ったわけではない。
『私と似ていると思ったようだが、間違いだ。髪や瞳の色が違う。全然似ていない。全くの別人だぞ』
死神はカイトが何を考えているのか察した。というのも、肖像画の描かれた女性は死神に似ていた。カイトからすれば、死神本人と勘違いしてもおかしくはなかった。
ただ、死神とは目や髪の色が違う。更に言うなら、服装も似ているのだが、それも色が違っている。色が違っているだけなのだ。
純白、潔白の髪や服装も白。それを引き立てるような紅い瞳。彼女は笑みを浮かべて、こちらを見ている。
「……そうですよね。よくよく見れば、別人だと思いました。髪や瞳の色が違っているからではなく、肖像画に描かれている笑みが」
カイトは死神と別人だと感じ取ったようだ。彼女の髪や目、服装の色で判断したわけでもない。
『笑み? 私も笑う事はあるが、何が違うというんだ?』
「何というか……あの笑みから悪意を感じ取れるというか……貴女からはそれがなくて。その悪意のような物が、メアリ様やキス様は魅了されているのかと」
彼が見ていたのは肖像画の彼女が死神に似ていたのもあるが、その絵から悪意を感じ取ったからのようだ。
「それに……気の所為だと思いますが、肖像画の絵と目が合ったような気もして……今は元に戻ったというか」
メアリやキスは肖像画の目が動いたと一言も言ってないのだが、カイトはその上で目が合ったように見えたらしい。
『……気にし過ぎた。これは単なる絵に過ぎない。あっても謎解きとしてだ。彼女がメアリ達を殺すわけでもない』
死神の言う通りではある。これは肖像画なだけで、何かをするわけではない。謎解きもゴールド=ゴールが仕掛けたに過ぎない。
それにカイトが見たというのなら、死神にも見えていないもおかしい。
「貴女が見てないのなら、そうなのかな? ……貴女のその姿は……誰かを真似てるとかは」
死神がカイトのような人間の姿をして登場したのは、その姿に合わせてなのか。だとすれば、真似た人物がいてもおかしくはない。
『私は元からこの姿だ。死神がわざわざ死者其々に姿を変える必要もないからな』




