死因
「……アルカイズ様は絵画室に隠れていたのでしょうか。もしくは、侵入者に捕まっていて、逃げてきたとかでしょうか。どちらにしても……」
メアリもアルカイズに関する会話に参加してきた。彼女も彼の死体に違和感を感じているのだろう。
「血でしょ。絵画室で手足を切られたにしては、血の量が少ないわ。逃げる時に付けられたとしても、廊下にその痕跡もない」
「ですよね。絵画室に逃げるよりも、叫ぶなりをして、私達の方に来たらいいはずです。それもありませんでした」
「アルカイズが死んだのは、三との命約が切れた後。アイツが館を出た直後に殺されたとして、すぐにアルカイズを襲ったとしても、近くに私達がいたわけよ」
三が館の外に出てから、キス達は書斎を調べていた。その時間であれば、彼が襲われる事に気付かないわけがない。
「はい。壱達が三の死体へ向かった後だとしても、物音が何度も聴こえたわけではありません。ましてや、戦闘をしていたなんて事は」
侵入者とアルカイズが戦闘を行う時間はない。その時に彼が逃げる事もない。逃げ込む場所を間違うはずもないはず。
『メアリ達の言う通りだな。アルカイズが何時殺されたのかが問題だ。手足を切られただけでは、アルカイズはまだ生きていたはず』
手足を深く切られていたとしても、メアリ達がこの場に来るまでに死んでいるのか。そこまでの血の量が確認出来ない以上、意識は残っていたのではないか。
「それに手足を切ったのにも関わらず、トドメがこれなのもそうだし、何の意味があって、こんな風にしたのかよ」
アルカイズの死体は手足を深く切られたのにも関わらず、ディアナの時のように、トドメとばかりに胸や頭をナイフを刺してはいなかった。
この傷がナイフではなく、魔法の可能性もあるわけなのだが。魔法の使用回数としては合わなくなる。
彼の死因は絞殺、もしくは溺死だと思われる。彼の苦悶の表情が物語っている。
『何故、彼の体が濡れているのか。魔法だとしても、わざわざ魔法を変える必要があるのか』
溺死と思わせたのが、彼の死体が濡れているからだ。血もあるが、水に濡れているのが分かる。それは床も同じ。
それとも何かを隠したくて、水を使う事になったのか。その水は魔法ではなく……
「もしかして、これが廊下にあった花瓶なの?」
「……この柄は……砕けていますが、間違いないです」
死体の側に割れた陶器らしき物があった。廊下で消えた花瓶だと考えるのが自然だ。零もその花瓶だと認めている。
それは中にある水を使用するためか。その花瓶を持っていたのは侵入者なのか。それともアルカイズである可能性もあるが。




