物音
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「遅いわよ。あの死体に関しては後で話を聞くわ。今から二階に向かうから、七は先頭に立ちなさい。勿論、メアリとアンタもついて来るのよ」
キスの指示の元、カイト達が館に戻ってから、すぐに二階へ向かう事になったのだが。
「キス様。その前に壱達にちゃんと状況を説明した方が。ここに私達がいる以上、外に出る事は出来ないはずです」
それをメアリが引き止める。彼女はカイトが戻ってきた事で、少し落ち着いたようだ。
従者達が館から離れて、何が起きたのか。
彼女は二階から物音が起きた事を伝えたわけだが、考えてみるとおかしな部分もある。
「……確かにメアリの言う通りだわ。焦っても仕方ないわね。私達を襲ってくる事もなさそうだし」
キスとメアリは襲われておらず、一階に何かあった形跡もない。
「二階に物音があってから、何も起きてないのですか?」
カイトがメアリに尋ねる。物音を聞いてから、何も起きてないのか。誰かが移動する音等あれば、侵入者がいる事になるのだが。
「何も……二階から何か倒れる音がしただけです。小さい物ではなく……大きな物かと」
少し前、キス達は書斎と調合室に行ったわけだが、そこで大きな物を動かした事はなく、自然に倒れるわけがない。
何者かが何処かへの部屋に入り、謎解きをしたのか。
「私はアルカイズの可能性が高いと思うわ。三が死んだ事で命約が切れたわけだからね」
アルカイズは三を餌にして、侵入者を誘き寄せようとしていた事は、三自身から聞いている。
このような事態になって、ようやく動いたのか。そうだとしても、キス達が探索しても彼を見つける事が出来なかったはずだ。
それ程に彼の気配遮断は優秀だったという事か。
「もしくは……侵入者の従者が忍び込んでいたかね。今も攻撃してこないのは、そういう事でしょ。それに」
従者達が離れた状態で、何も仕掛けて来ないのは魔法を使う事が出来ないから。
命約によって、攻撃しても従者が身代わりになるだけで、意味がないのもある。
「……彼女が殺されていたからですよね」
キスが言おうとしていた事を、メアリが先に口にする。
カイト達はあの死体が三であると説明していないが、メアリも彼女の死体だと判断してるようだ。
侵入者がディアナを殺し、館内に隠れていたかもしれないが、三が殺されたとなった場合、外にいなければならない。
なんせ、館の入口は鍵が掛かった状態になっていたからだ。
零が入口の鍵を解錠したが、その隙に入るのは不可能。キスとメアリの目を掻い潜るのは無理な話だ。
そんな事が可能であれば、二人を殺害も出来るはずである。




