手
「……そうです。何で気付かなかったんだろう。頭の方からも血が出るのは当然なのに」
『死体を見慣れていないからだろうな。しかも、頭が消えている事の方が印象が強く、血は些細な事だと思わせたのかもしれない』
頭が消えているからといって、血も一緒に運ぶ事は出来ない。何処かへ運んだ痕跡は残っているはず。それが見当たらないのは、最初から首はなかった。もしくは、別の場所で殺害されたか。
そうなると、この場にある血溜まりがある事自体おかしい事にもなる。
「そう言われると……死体だけでなく、血も確認するべきでしたね。今からでも」
『それは止めておけ。メアリが呼び戻した以上、下手な動きは君が怪しまれる』
主の命令は絶対である。それを拒否するのは難しい。しかも、七と零はカイトを疑っている節がある。下手にキスへ報告されると厄介な事になるのは間違いない。
『死体を放置したままにしておくのなら、もう一度確認出来る時があるかもしれない。その時に何かしらの変化があるのか』
キスはあの死体を放置する事にしている。魔物の餌として機能するかの確認もあるのだろう。
もしくは、侵入者が何かを起こすのか。死体を再度見る事は確実にあるはず。
「急ぎますよ。気になる事はあれ以上はないはずですよ」
零はカイトが未だに死体を見ている事に対して、注意してきた。あれ以上とは、館に物音が響いた事。主が危険が迫っている可能性がある事なのか。
それとも、あの死体から情報は他にないと思わせたいのか。
「……そうですね。今はメアリ様達の安全を確保する方が先です」
カイトは死神から教えられた事を、零や七に伝えなかった。二人に合わせる事で、自身への疑いを消す必要がある。
七も零の言葉によって、カイトの方へ振り向く。彼の事を怪しく思っているからこそ、目を向けたのだろう。
彼女に対する、カイトの言葉ですぐに向き直した。
『そこまで君を気にする方が怪しく思えるがな。後は死体の側に寄り、確認したかった事がある。それは臭いだ』
「……臭いですか? 貴女の鼻が良い事は分かってますが、体温以外に腐敗臭とか確認するつもりですか?」
死神の鼻によって、メアリの部屋や従者の部屋で睡眠ガスが使用された事に気付けた。その嗅覚で何を調べるつもりだったのか。
「見た限り、あの死体は腐敗するところまではなっていたかった。それよりも三の死体であれば、臭いがあるはずだ。調合室で手に触れた臭いが」
服、武器、瓶以外に彼女だと判断する方法があった。彼女は調合室で臭いのある液体に触れていた。
調合室を出る事で臭いは消えるはずなのだが、死神ならば嗅ぎ取れたかもしれない。臭いが無理でも、指が荒れていてもおかしくはない。調べるには十分の理由があったわけだ。




