呼び戻し
「確かに……槍は僕でも扱うのは難しいです。隠れて移動するとなれば、持っていくのは危険ですね」
これが槍ではなく、ナイフであれば話は別だっただろう。ディアナは調理場にあった包丁で背中を刺されて、殺されたからだ。
「従者の体に仕掛けを施されていると警戒した……というのはどうです? だから、遠くから攻撃をしたわけで」
従者は捨て駒。侵入者を殺すため、体に毒を塗っていると怪しんでいた。
「なるほど……けど、侵入者がキス様達の姿を一度でも確認していたのなら、その可能性はかなり低いかと。魔法使いと従者の色は同じになっているので」
もし、侵入者がアルカイズが姿を消している事を知っていた場合、自身を倒すための生贄にするのは無理だと分かるはず。
なんせ、指示する主がいないのだから。キスやメアリの命令があったとしても、命約の事もあり、勝手に死なせるわけにもいかないのだ。
とはいえ、今回は三自身の意思で外に出たわけだが、そこまで侵入者が把握していたのかは分からないのだが。
「首だけが消えている理由は分からないが、三が殺されたわけではなかったら、どうなんだ」
「あっ!! アルカイズ様の命約が発動したせいでだ。さっきの私が考えたのよりも納得出来るかも」
七の考えを零が言葉にする。
三が狙われたわけではなく、アルカイズが一度殺された可能性。命約により、彼女が身代わりになった。
侵入者の姿も見えず、槍や瓶で反撃も許されない。彼女自身、何が起きたのかも分からずに死んだ事になる。
「侵入者は三が何処で死んだかも分からなかった……なるほど」
三の死体は館の目の前にあるが、アルカイズを狙っていたとすれば、そこまでの余裕はなかったとも考えられる。
侵入者の狙いは従者よりも、魔法使いであり、命約を一度使用させれば、従者の存在はどうでも良くなるはずだ。
それであれば、侵入者が三の死体に触れなかった理由にはなるのだが、七も言っているように、ネックになるのは彼女の首、頭だけが消えている事。
「これでいいか。これ以上、主を待たせるわけにもいかない。先に行くぞ」
七は館の方に目を向ける。主であるキスやメアリを待たしている身だ。それらを気にするのも従者としては当然。
「壱もです。私達だけだと、これ以上は分かりませんよ。死体を館に運ぶのは駄目ですし、戻りましょう」
零はカイトを腕を引き、館に連れ戻そうとする。
『待て。私も気になる事がある。多くは無理だとしても、死体の側に。出来るなら、触れてみてくれ』
死神は死体に触れるよう、カイト指示を送る。触れるだけで何が分かるのか。
「最後です。死体に触れるだけでも」
カイトは死体へと手を伸ばす。零もそれだけであるなら、許しそうなものだったが。
「七!! アンタ達もすぐに戻ってきなさい!!」
それを止めたのはキス。館内から七達を呼び戻すように叫んできた。




