時計と瓶
「……彼女だとは思ってますが、確定ではありませんよね? 頭が見つからない以上、彼女と証明する物がないわけですから。逆に彼女と決めつける方がおかしいです」
状況的には三である事を示しているが、物証はない。それを見つけるのも死体を確認に行く理由に含まれている。
「侵入者もそうですし、その従者がいてもおかしくはないはずですから。今は……彼女が戻って来ない事を考えるとですが」
「それ以外に人はいないはずだから……っと、見事なまでに綺麗な切り口だね」
零達は死体前に到着。館からそこまで離れておらず、会話を少しするだけで届く距離でしかない。
「魔物の仕業ではなさそうだ。キス様達が見た魔物は獣に似ていた。この死体に喰われたような痕跡はない。魔法か……鋭利な刃物か。切られているのは首だけだな」
「血溜まりも凄いですね。体全体に広がってます。白服も下側が赤黒くなってるぐらいに」
死体の下。地面に血溜まりが広がっている。傷口は首だけだが、足のところにまで流れついている。
「それに……この死体は女性だね。身長も彼女と同じぐらいに見えるけど」
死体は仰向けで倒れている。零がそれが女性だというのも、胸の膨らみがあるからだろう。
「側に彼女が所持していた槍も落ちている。刃に血はついていない。遠くから攻撃されたのだろうか」
死体の側にあったのは、彼女が装備していた槍。刃に血は付着していない。服装の乱れもなく、争った形跡もなし。
遠距離からの不意討ち。それが出来るのは魔法でしかないのではないか。
「一応、私が死体に触れますね。服の中に私が渡した時計があれば、彼女だと決めても良いのではないですか?」
零は三に時計を渡していた。外に時計はなく、戻る時間を忘れないためだ。
ただ、こんな状況になるのが分かって、彼女に時計を渡したとも考えられてしまう。
彼女はカイトと七の返事を待たず、死体の服の中を探り始める。死体に触れる事へ抵抗はないようだ。
「……ありました。私が渡した時計です。他に三だと分かる物があれば……」
三と判断がつく物はあるのか。彼女が着ていた服装と同じ。武器も側にある。時計も服の中にあったのであれば、彼女で間違いないと思うのだが。
「これは……調合室にあった瓶? 外に出た時用に盗み取った? それとも侵入者が懐に隠したとか?」
三が調合室から何かしらの瓶を奪い取った事をカイトは見ている。三以外では、彼しか知らない事だ。
「魔物対策で、彼女がキス様達に内緒で持っていくのを僕は確認しています。侵入者が忍ばせた事はないです」
こんな事態だ。カイトは三が瓶を持っていった事を正直に話した。
「……それは仕方ないですよ。自分の身を守るためですから。七もそこは黙っていてあげてくださいよ」
「……死人に口なし。壱が黙っていた事を言わなければいいのだな」
七もキスとメアリに報告する気はないようだ。瓶が盗まれていたのなら問題だが、服の中に残っていたのが救いでもある。




