色
『……彼女がしたと思うか?』
死神の質問をカイトは否定した。彼女というのは、アルカイズの従者である三の事だ。
先程まで従者の部屋にいて、何かをする時間はあったはずなのだが。
『自動的に魔法が発動する方法はあるのか? いや……魔導具がその働きのような事をするのか。だが、それらしき物は見当たらない』
クローゼットの中を確認しなければ分からないが、カイトが見る限りでも、魔導具らしき物はなさそうだ。
そもそも、魔法使いが従者のために魔法を使ってまで、掃除をするはずがない。従者自身でするのが当然なのだ。
というのも、部屋の中が綺麗に整えられていて、掃除が行き届いている。
それは間違っていない。魔法使いに従者がついて来るのは当然。従者の部屋だとしても、綺麗な状態に保っているのかもしれないが……
『彼女はこの部屋で生活していたのか……だな』
「ですね。彼女しか館の管理をする従者がいないのなら……」
この部屋に生活感が一切感じられないのだ。
零はこの部屋を使っていると言っていた。しかし、何処を零が使用しているのかが、判断がつかない。
館の管理を一人でしているのなら、何処かに綻びが出てもおかしくない。その中で一番出るのは自身の部屋。従者の部屋ではないだろうか。
それが一切使われてないように見えるのは、彼女が優秀なのか。別の理由でそうしなければならなかったのか。
『普段、彼女は別の部屋を利用していたのか。だとすれば、この部屋には何かありそうだ』
何も使われてない事が怪しさを際立たせている。ベッドが色分けされているのもそうだ。
食堂でも四つの色に区分けされていた。
三も従者の部屋と食堂を見れば、アルカイズに報告するかもしれない。
「彼女を問い詰める理由はないですし」
従者の部屋のベッドの色や食堂の色分け等、零が知っているのかは不明。
彼女に聞けるのは、この部屋を本当に使用していたかどうか。綺麗なのは掃除していると言われれば、そこで終わってしまう。
館の主であるゴールド=ゴールは零を雇う前に魔法を継承させる事を決めていた。
この状況は彼が仕込んだと考えられないだろうか。余計な情報を零には与えない可能性もある。
「……何も変わったところはなさそうですね」
カイトは右手前にある黒のベッドに触れてみる。
零が言った通り、カイトの体に変化はなく、罠が仕掛けられた様子もない。
ベッドの掛布団を開けてみると、数字が描かれている。黒のベッドは一だ。丁度、カイトの燕尾服と同じ色だったりする。流石に数字と色がカイトと合ったのは偶然だろう。
カイトは来る予定もなく、零もカイトが壱である事を知らなかったのだから。
次はクローゼットを開けてみる。中は何も入っていない。館の魔法使いの従者用の灰色の燕尾服が掛けられてもいない。
どれかのクローゼットの中に、零が着るための燕尾服が何着も用意されていたら、そこが零専用だと分かる。