神の数字
「……思い出した事がある? この場で言う必要があるわけ? 調理場での出来事の場合、アンタのミスでしかないわよ」
キスは七に再度圧を掛ける。調理場の出来事を主であるキスに報告を忘れた事であれば、その時に全てを伝えておかなければならない。
しかも、メアリ達のいる前でそれを言うのは、主としての面目が立たない。余程の事ではないかぎり、七に対するキスの評価は下がるだろう。
「違います。書斎の謎解きに関してです。神の数字に聞き覚えがあるのです。キス様以前の主が神学を調べていました」
七が提供しようとしているのは神の数字。ディアナやアルカイズもいつもとは違う従者を連れて来ていたが、キスもそれと同じ。
昔からいる従者を繰り上げたわけでなく、何処からか引き取った形だ。
ディアナやアルカイズが零を引き取ろうとした際、キスはそれを拒否したわけだが、彼が特別だったという事だろうか。
「……嘘じゃないわよね。今はメアリと協力関係を結んでいる以上、蹴落とす事は考えるなんて事はなしだから」
キスも少し疑いの目は見せるものの、前の主の情報を少しは持ち合わせているのか、間違っているとは断言出来ないようだ。
「私よりも前じゃなくて、もう一つ前の主ね。アイツとは反りが合わなくて、交換した形だし。優秀な主だった話は聞いてるわ」
キスよりも一つ前ではなく、二つ前の主。その主の話を聞いた事で、キスも交換を受け入れたのかもしれない。こういう情報が手に入るかもしれないという事だ。
「そうです。メアリ様が私の言葉を信用出来なければ、神の数字の本を嵌め込むのは私がやっても構いません。勿論、メアリ様とキス様の許しがあればですが」
零の言葉と七の言葉の信用度は同じぐらいか。それでも、彼の場合は自身で試す事を厭わないのであれば、真実味は十分ある。
「私は……」
零の言葉を信じるのであれば、七の言葉も信用したいところだろう。だが、それはカイトを危険に曝す行為でもある。
七が試すのであれば、メアリの本音ではやって欲しいところだろう。
「うろ覚えじゃないでしょうね。その証拠があれば話は別。こちらとしても、無駄に危険に晒したくはないし」
キスとしても命約を結んでいるのだから、従者を下手に失いたくはない。
言葉だけでなく、物的証拠でもあれば、彼に謎解きをやらさなくても済む話になる。
「証拠はあります。その数字が書かれている本があったからこそ、声を掛けた次第です」
七はそう言い、踏み台を使って、神学の本棚の高い位置にある本に手を掛けた。
何も起きなかったが、それはある意味無謀な行動。キス達も神学や悪魔学の本棚を見るだけにして、触らないように警戒していた。
それは七も重々承知していたと思っていたが、これも自分の体で示そうとしたのか。




